【第9回】東京ゴッドファーザーズ(2003年)
これぞ日本のクリスマス・ストーリー
筆者:こしあん
映画・海外ドラマ、読書、お笑い、カメが大好き。特技はイントロクイズ(80年・90年代ソング限定)。
怖がりのくせにホラーとミステリーが大好きで、生まれ変わったらFBI捜査官になりたい。
休日にどれだけ家にこもっていてもまったく苦にならない超インドア派。
ゆるい解説と小学校から上達していないイラスト(ときどき)で、好きな映画を紹介していきます。
東京ゴッドファーザーズ(2003年)
まるでスイッチを押したかのように、急激に寒くなりましたね。ぼんやりしている私は、まだ衣替えがちゃんとできておらず、毎朝着る服がどこかヘンな感じになっています……
静岡市に引っ越してきてビックリしたことのひとつは、真冬でも雪がほとんど降らないこと。市内でもオクシズのほうは降りますが市街地はほぼゼロ。
風花が舞っただけで、Twitterの投稿が「雪! 雪!!」とざわつくくらい(Twitterやってないけど)、雪がめずらしいのです。
『東京ゴッドファーザーズ』は、そんな静岡市民が「わ~わ~わ~」ってなっちゃう、雪降る東京のクリスマスのお話。
といっても、ロマンチックな恋愛モノではなく、新宿のホームレス三人組が巻き起こすドタバタコメディです。
『PERFECT BLUE』や『パプリカ』などで知られる今敏監督のアニメーション映画です。アニメはあんまり……という人も、登場人物たちのなめらかな動きと個性的なキャラクター、リアルな東京の街並みと構図に引き込まれ、観ているうちにアニメであることを忘れてしまうはず。
あらすじはというと……
自称・元競輪選手のギンちゃん、おかまのハナちゃん、家出中の女子高生ミユキの三人は新宿の公園でホームレス生活を送っていたが、クリスマスの夜、ゴミ捨て場で赤ちゃんを拾う。「神様からのプレゼントよ」と言って、赤ちゃんに「キヨコ」と名付け、自分で育てると言い張るハナちゃん。三人は赤ちゃんの母親探しを始めるが、行く先々で騒動と“奇跡”が巻き起こる。
タイトルを見た時は、ゴッドファーザーってマフィア?? って思っちゃいましたが、「名付け親」という意味なんですね。1948年に製作されたアメリカ映画『三人の名付親』からヒントを得た作品だそうです。
重なりすぎる偶然がむしろ心地いい
序盤はアニメーションならではの、わりと大げさなドタバタ喜劇ですが、中盤で一転、「えっ!?」となるようなシリアスな展開に。
とてもよく練られたストーリーに、ドタバタ感とシリアス具合が絶妙にブレンドされ、軽快なテンポで進んでいきます。
赤ちゃんの母親を探している三人ですが、それぞれの過去やあやまちと向き合い、自分のこれからの人生を見つめ直す旅でもあります。
行く先々で巻き起こる出来事は、「いやいや、そんな偶然あるわけないでしょ」というものばかりですが、これはそういう奇跡を描く現代のおとぎ話。重なっているから「あり得ない」となるわけで、ひとつひとつ切り離せばあり得るお話。
まるで天から神様が見守っていて、迷い傷つきちょっと間違った方向へと向かいそうになっている人間を操り、導いていくような展開。
クリスマスから年末にかけて、慌ただしく騒がしい中で、ふいに訪れる静けさ。
自分への小さなごまかしや間違い、過去への小さな怒り、そういったものを抱えて生きる現代人の、疲れた心にそーーーっと沁みるお話です。
【今日のまとめ】
日本アニメ界を代表する存在であった今敏監督ですが、2010年に46歳の若さで、すい臓がんで亡くなられました。
ブログには最期の言葉が遺されています。
今敏 最期のブログ「さようなら」
作品づくりに対する熱い想いと、周囲の人々への感謝。
読んでいて号泣してしまいました。
なかでも一番、私の心が震えたのは、両親への想いをつづったこちらの言葉。
幸せそのものも大事だけれど、幸せを感じる力を育ててもらったことに感謝してもしきれません。
幸せは“なる”ものでもなく、“してもらう”ものでもなく、“感じる”ものだということを、改めて思わせてくれた言葉です。
『東京ゴッドファーザーズ』にも、そんな監督の想いが流れているように思えます。
街中に飾られたクリスマスツリーを眺め、「ハロウィンが終わったとたんにクリスマスかよっ!! 別れてもすぐ新しい彼氏ができるモテ女子かっ」とか、わけのわからないこじらせ感情で今のこの時期を過ごしている私ですが、『東京ゴッドファーザーズ』を観ることで、ちょっとだけ気持ちが浄化されました。
【今日のまとめ】
せめてクリスマスの夜くらい
奇跡を信じたっていいじゃないか
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■東京ゴッドファーザーズ(2003年)
監督・脚本・原作:今敏
声の出演:江守徹、梅垣義明、岡本綾
隔週水曜更新。次回の更新は11/23(水)です。
WOMOシネマ伝道師こしあんの『ぐるぐるシネマ迷宮』 筆者だけの思い出調味料満載の懐かし作品から、あまり共感を得られないようなディープな作品まで、密かな魅力いっぱいのシネマ迷宮へようこそ。出口はたくさんあります。