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【第46回】こじらせ具合が絶妙な共感コメディ2選

感情をぶつけあうシーンにふるえます

筆者:こしあん
映画・海外ドラマ、Bリーグ、読書、お笑い、カメが大好き。
特技はイントロクイズ(80年・90年代ソング限定)。
怖がりのくせにホラーとミステリーが大好きで、生まれ変わったらFBI捜査官になりたい。
休日にどれだけ家にこもっていてもまったく苦にならない超インドア派。
ゆるい解説と小学校から上達していないイラスト(ときどき)で、好きな映画を紹介していきます。

「共感、共感、共感の嵐です!」

「こじらせ」は、すぎると人を遠ざけますが、適量を守れば、ちょっとかわいく思えて応援したくなります。
今回は、そんな絶妙な「こじらせ」映画をご紹介します。

勝手にふるえてろ(2017年)

松岡茉優が演じる、妄想好きでリアル恋愛ド素人のOL・ヨシカが恋に悩んで暴走していく話。

まるで20年前の自分を見ているようで(こんなにかわいくないけど)、めちゃくちゃ笑えたけど、胸が苦しい……。
ヨシカは私だ! と感じながらも、3分後には、いやいや違う、ここまでこじらせてない! とその暴走ぶりに引く。
でもまたすぐに、あー、わかるわかる、わかりすぎてイタイ……と、傷をえぐられたり、癒されたり、ニヤついたり、うわぁーってなったり、観てるこちらの感情もめまぐるしく変化する。

同窓会の居心地の悪さ、存在感の薄さ、もう見てられない…ツライツライツライ……。

ヨシカは、中学生の時からずっと「イチ」という同級生を想い続けているのですが、相手に悟られないように別の方向を見たまま、視野の隅で「イチ」を見るという技『視野見(しやみ)』を編み出していて、この言葉選び、スゴイな! と驚愕しました。

私も中学生の頃、やってたよ、視野見……。

ヨシカは、絶滅生物が大好きで、アンモナイトの化石を愛でたりしてるんですけど、ねじくれたおかしな進化をして、結果的に絶滅してしまった生物に自分を重ねる感覚って、すごく良くわかるなぁと。

そんなヨシカのこじらせ具合が絶妙で、イタすぎないギリギリの変人ぶりと、かわいさが共存していて、とてもとても愛おしくて、心の底から応援できるんです。
口ぐせは、「ファックファックファックファック……」ですけどね…笑

松岡茉優がこの役に本当にぴったりで、ほかの女優さんでは考えられないですね。素晴らしいキャスティング。

「絶滅す~べ~きで~しょうか~♪」
唐突にミュージカル風になるシーン、笑いながら泣きました。
実ははじめのほうは、ヨシカの日々はけっこう充実していて、コミュニケーション能力も高そうなんです。
なので、あれ? ちょっと思ってたのと違うかも……ってなるんですけど、このミュージカルシーンをきっかけに180度変わるんです。

ヨシカに猛烈なアプローチをしてくる同僚役が、黒猫チェルシーというバンドの渡辺大知という人で。恥ずかしながら全く存じ上げなかったのですが、すっごくいい味を出してて!

うわっ! ウザっ! こういうヤツいる! あー、でもこの真っ直ぐさ、明るさに救われたりするんだよねー。あ……やっぱり、ウザっ! 気持ち悪い! その繰り返し。
ウザさとピュアさの波状攻撃。

「オレは、かなりちゃんと、ヨシカが好き」
は、100年後も残したい名ゼリフ。

私はふるえたよ。

軽いようで誠実な、不思議なニュアンス。
なので人によっては、「ファーーーーーック!!!」ってなるかも…笑。

『勝手にふるえてろ』公式サイト


犬猿(2018年)

印刷会社の営業マンとして働く真面目な青年・和成(窪田正孝)と、刑務所から出所したばかりの乱暴な兄・卓司(新井浩文)。

仕事はできるが容姿が悪くて嫌味っぽい由利亜(ニッチェ江上)と、芸能活動に励むも全く芽が出ない、容姿だけが取り柄の妹・真子(筧美和子)。

見た目も性格も正反対な兄弟と姉妹の愛憎を、笑いとシリアスを交えて描くドラマ。

こういう感情わかるわかる~と共感し、笑い、二組の兄弟・姉妹が感情をぶつけ合うクライマックスには、自分でもビックリするくらい泣きました。

私には姉妹はいないけれど、家族ならではの羨望、嫌悪、嫉妬、侮蔑といった、いろんな感情が入り混じる感覚はよく分かるし、そこを見事に描いています。
役者さん全員素晴らしいけど、とくに窪田正孝の演技はすごく好き。
普段は淡々としていて控えめで真面目な弟が、しぼり出すように叫んで感情をあらわにするシーンが本当に素晴らしい。

お互いがお互いに本当は相手の生き方を羨ましく思っていて、でも自分はそれができないから、見下すことでプライドを保つ。
嫌いだけど、大切な存在。
兄弟・姉妹の複雑な感情をリアルに丁寧に描いていて、この二組の重ね方も上手いと思いました。感情や行動の流れに無理がなく、違和感もない。

人が一番隠したい、かっこ悪い部分、みっともない部分、恥ずかしい部分、触れられたくない闇の部分をピンポイントで刺激されて、すごくイタイです……。

車のエンジンがなかなかかからない窪田正孝を見て、会社の同僚が「人を殺しそうな目をしてた」と言うシーン。
あえて表情を画面に見せない撮り方が、観ている者の想像力をかきたてます。

ニッチェ江上の後ろ姿だけを映すシーンとか、背中で語る感じがすごくいいんです。

こういった“見せすぎない”シーンがたくさんあって、それがリアルな質感と不穏な空気を醸し出すのに抜群な効果を発揮しています。


あと、オープニングの仕掛けがとっても面白いんです。
あれ? まだ本編始まってなかった? 新作映画の予告? ってまんまとダマされちゃった。
こういう遊び、好きです。

「共感、共感、共感の嵐です!」

ってオープニングで筧美和子が言ってるけど、確かにこの映画は、共感、共感、共感の嵐でした。

『犬猿』公式サイト

更新日:2019/4/17
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