【第48回】『ジョーカー』&『キング・オブ・コメディ』
キーワードは「妄想」と「笑い」
筆者:こしあん
映画・海外ドラマ、Bリーグ、読書、お笑い、カメが大好き。
特技はイントロクイズ(80年・90年代ソング限定)。
怖がりのくせにホラーとミステリーが大好きで、生まれ変わったらFBI捜査官になりたい。
休日にどれだけ家にこもっていてもまったく苦にならない超インドア派。
ゆる~い解説で好きな映画を紹介していきます。
『ジョーカー』(2019年)
10月4日に公開し、2週連続で首位を獲得。興行収入20億円突破の話題作『ジョーカー』。
エンドロールが終わっても重苦しくて立ち上がれない。
自分の感情の整理が追いつかず、ヤバイヤバイという気持ちしか出てこないほどの衝撃作。
これほどレビューや採点が難しい映画があったでしょうか。
簡潔に言うと、「バットマン」の宿敵・ジョーカーが誕生するまでの物語なんですが、いわゆるヒーローものの雰囲気はカケラもないです。
まずは予告をご覧ください。
映画としてみたら★5なんです。
でも、主人公のアーサーが貧困のなかで虐げられ、蔑まれ、容赦のない暴力にさらされ、やがて「ジョーカー」へと覚醒していく感情の流れと行動が完璧すぎて。
共感しかないから、それが恐ろしくて。
ヒース・レジャーの怪演が見事だった『ダークナイト』では架空の人物として見ていられたジョーカーが、この映画では、現実と地続きの「人間」としてそこにいる。
アーサーは、わたし。
アーサーは、あなた。
今の社会、アーサーは世界中にたくさんいる。そして、アーサーをジョーカーに変えてしまう人間たちもたくさんいる。
この映画は傑作ゆえに、そんな人たちを刺激し、ボーダーラインを越えてしまう危険性をはらんでる。
そんな不安ばかりがあふれてしまい、純粋に映画として、娯楽として楽しめなかったので、点数をつけるとしたら★3.5になります。
いろんなものを突きつけられて、負の感情がどんどん湧いてしまい、ツラくて苦しくてしょうがない。
レビューを書く時に心がけていることがあって、どんな真面目な映画でも一言は面白いことを書こうと思ってるんですが、この映画に関しては1ミリもふざけられない……。
アーサーに共感もするし、なんかヤバい、不気味って思ってしまう人たちの気持ちもよくわかる。そのズレの描き方がまた的確でゾワゾワする。
自分はどちら側の人間にもなり得る。
そんなふうに、ずっと心のざわざわが消えません。どう受け止めればいいのか、自分の感情もよく分からなくて戸惑ってしまう。
怒りや悲しみを笑いに変えて、ギリギリのところで抑圧しながら生きてきた人間の、ある種の心の解放であり、救いでもある。
アーサーを演じたホアキン・フェニックスが本当にスゴイ!!
この役のために20kg以上も減量し、アバラとか背骨が浮き出るほどガリガリの身体に。
アーサーは、自分の意思とは関係なく笑ってしまう、という持病があるのですが、特徴的な笑い方が実に見事で。
アーサーの時は、笑いの奥に悲しみや怒りがあり、ジョーカーへと覚醒してからは、解放と自信に満ちあふれている。その「笑い分け」が素晴らしいんです。
なんか、この映画を観てから「笑顔」というものが別の意味を持ち、ポジティブではなく、悲しくて怖いものになってしまった……。
それから、ジョーカーが階段を踊りながら降りてくるシーンにすっかり魅力され、家の中で事あるごとにジョーカー踊りをしているんですが、これ、すっごく気持ちいいです。
端から見たら不気味ですけど、誰も見てないから自由に踊っていいんです……笑
本当に心が解放されるんで、みなさん、ダマされたと思ってやってみてください!
世界は理不尽であふれている。
きっと知らずに誰かを傷つけたり、傷つけられたり、救ったり、救われたりしてるんだろうなって。でも、生きるってそういうことなのかなって。
心を解放させることは大切。でも吹っ切れる方向をどうか間違えないように。
そして、たった一人でも自分を認めてくれる人がいれば……と思わずにいられない。
『キング・オブ・コメディ』(1984年)
コメディアンとして有名になりたい男ルパート・パプキン(ロバート・デ・ニーロ)が、テレビに出るために有名コメディアンを誘拐しようと暴走する話。
『ジョーカー』はこの映画のオマージュたっぷりということで話題になっています。
一言でいうと「ウルトラ・ポジティブ・パワフル暴走芸人」パプキン爆誕!
『ジョーカー』と比べるのは野暮かもしれませんが、私はこちらのほうが好きかな。まだ救いがあって、鬱屈した気分にはならなかったので……。
でも人としては、パプキンよりアーサーのほうが好きです。
『ジョーカー』と『キング・オブ・コメディ』は対になっていて、ふたつでひとつの作品として完成するのかなって思いました。
『ジョーカー』で谷底に落ちたような気分になっていたのですが、『キング・オブ・コメディ』を観ることで這い上がれたような感じです。
観る順番としては、『ジョーカー』→『キング・オブ・コメディ』をオススメします。
パプキンの漫談は意外にもちゃんと面白かったです。
でも、笑いってつくづく難しいなって思いました。芸人さんて、やっぱりスゴイです。
【ここよりネタバレあり】
『ジョーカー』鑑賞後に『キング・オブ・コメディ』を観たり、いろんな人のレビューを読んだりして、ずっとずっと考えていました。
『キング・オブ・コメディ』のパプキンと『ジョーカー』のアーサーは、社会から孤立しているという似たような境遇にありながら、まったく正反対の結果になってると思うんです。まぁ、アーサーのほうが数段ツライ状況ですけど……。
同じ幹から分かれて、(一瞬でも)地上で咲いて散った花と、地下に深くのびて耐えて耐えて爆発してしまった根っこ。
ポジティブになるか、ネガティブになるかの違い。
「人生ドン底で終わるより、一夜の王になりたい」
イカれてるけど、パプキンのこのパワーと執着と行動力、見習いたいって思いました。
どっからくるんだその自信は!っていうほどのナゾの強さと自己肯定感。
どちらの作品も、妄想と笑いがキーワードなんです。
『ジョーカー』のほうは、「ジョーカー誕生の物語」と思わせて実はそうではなく、ジョーカーは既にジョーカーであり、ジョーカーが作り上げた架空の「ジョーカー誕生の物語」の中で、妄想としてアーサーという人間を描くことで、誰でもジョーカーになり得るし、と同時に理由なんて後付けということも示唆している。
それがジョーカーの言うジョークなのかと。観ている側が踊らされたのですね! まんまとやられました。
でも、妄想と現実の境目が曖昧に描かれているので、観る人によっていろんな解釈があり、それもまた面白いのです。
WOMOシネマ伝道師こしあんの『ぐるぐるシネマ迷宮』 筆者だけの思い出調味料満載の懐かし作品から、あまり共感を得られないようなディープな作品まで、密かな魅力いっぱいのシネマ迷宮へようこそ。出口はたくさんあります。