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映画『のさりの島』監督・脚本 山本起也さんインタビュー

映画『のさりの島』監督・脚本 山本起也さんインタビュー

womoインタビューシリーズ【監督・脚本/山本起也さん】

映画『のさりの島』2021/5/29(土)よりユーロスペース他全国順次公開!

“やさしい嘘”が生み出した、おとぎ話のような一瞬の時間 —— 天草から“のさり”の風が、あなたの心を包み込む、やさしいひと時を届ける

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「もしもしばあちゃん、俺だけど…...」
オレオレ詐欺の旅を続ける若い男が、熊本・天草の寂れた商店街に流れ着いた。老女の艶子は、若い男を孫の"将太"として招きいれる。あたたかいお風呂、孫が好きな美味しい料理、そしてやさしいばあちゃん。若い男はいつの間にか、"将太"として艶子と奇妙な共同生活を送るようになり、やさしい"嘘"の時間に居場所を見つけていく。

2019年に大ヒットを記録した映画『嵐電』に続く、京都「北白川派」の最新作は、熊本県天草が舞台となる。海外でも高い評価を得た『カミハテ商店』(12)の山本起也監督にお話を伺った。

『のさりの島』公式サイト


世界は感じるもので、信じるもの。そういう映画をつくってみたい

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--山本監督とは'12の作品『カミハテ商店』で来静された以来ですね。よろしくお願いします。
今回の映画のテーマを扱おうと思ったきっかけや背景を教えてください。

「のさり」とは、この映画の舞台になる天草や熊本に古くからある言葉です。いいこともそうでないことも、自分の今あるすべての境遇は、天からの授かりものとして否定せずに受け入れるという、天草の優しさの原点ともいえる考え方。
ここ10年ほどの世界は、自分に対する敵だとか、人との対立や分断を煽っているような気がするんです。ものすごく偏狭な価値観で、対人関係などがものすごく変化した10年でした。でもその世界は外からの情報によって規定されるのではなくて、自分が感じるものが世界であるはずだと思うんです。自分が何を感じ、何を信じるかで世界は変わる。そういう映画をつくってみたいと思ったのが最初です。

--映画の舞台に天草を選ばれた理由は?

プロデューサーの小山薫堂さんと一緒に熊本に行ったときにこの映画のことを話したんです。そうしたらそこに居合わせた人に「天草だったらこの話はあるかもしれんばい」と言われて。この映画は天草で撮らなければいけないと、脚本をすべて天草を舞台に書き直したんですよ。天草の寛容さとか、精神性とか、そういうものを根底においたら、この話が現実にあるかもしれないという厚みがどんどん増していきましたね。

「まやかしでも、人には必要な時があっと(ある)」

--今回の映画の見どころや苦労されたところはありますか?

天草にはキリシタンの歴史を伝える史跡や施設があり、潜伏キリシタンの要素を入れるか悩みましたね。ちょうど世界遺産に認定された年に映画を撮ったので、入れられるのだったら入れたいという想いはあったんですが、懺悔や改心といったありがちなイメージに結び付けられるのは避けたいなと。オレオレ詐欺の男が最後に懺悔したり改心したりするみたいな話の構成にはしたくなかったんですよ。

--それでは、お気に入りのシーンやセリフはありますか?

映画のワンシーンの「まやかしでも、人には必要なときがあっと」というセリフを思いついたとき、全部が腑に落ちましたね。「本当」より「嘘」の方が人を受け入れる幅が大きいと思うんです。だから僕は嘘というのは優しい概念であるというか。この言葉が思い浮かんだときに「あぁ、できたな」と思いました。

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映画という世界に携わって背伸びしたかった

--続いて、プライベートなことを少しお聞きしたいと思います。なぜ映画監督という職業を目指されたのでしょうか?

最初のキッカケは、中学生時代の壁新聞で映画担当になってしまって。何か作品について書かなくてはいけないので、叔父さんに相談に行っておすすめを聞いたんです。でも当時はその作品の良さがまったく分からなく寝てしまって(笑)。映画を見るようになったのはそこからですかね。そんなことをしているうちに映画の世界で知的なことをやるような人がかっこよく見えたんですよ。それで監督に憧れて。背伸びしたかったんですよね。

--山本監督は静岡出身ですが、映画づくりを行う上で影響を受けていることはありますか?

『のさりの島』はまさにシャッター商店街の話です。実家が呉服町商店街だったので、商店街を舞台にした映画、ということでは、水を得た魚、といった感じでしょうか。商店街の中の家の構造とか、自分の子どもの頃の原風景がそのままこの映画の舞台になっている感じです。そういう意味ではかなり影響は受けているのではないでしょうか。

映画を見終わった後の余韻も含めて楽しんでほしい

--最後に、womo読者にメッセージをお願いします。

コロナ禍からオンラインやリモートなど便利になった一方で、人が街に出てお茶をしたり映画を見たり、そんな当たり前だと思っていたことが、実はすごく豊かで大切だということに気付きました。人が会うということがいかに尊いことかと。なのでぜひ映画もオンラインでの鑑賞ではなく、映画館で観て、人とともに何かを楽しむ豊かさを感じてほしいんです。そして、映画館へ向かう道や帰り道にちょっと余韻に浸りながら遠回りして帰る……そんな時間も含めて映画の楽しみだと思うのです。その余韻も感じながらこの映画を見ていただけたら嬉しいですね。

--山本さん、ありがとうございました!

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©高橋保世

プロフィール

監督/山本起也 Yamamoto Tatsuya
1966年生まれ、静岡県出身。無名の4回戦ボクサーたちの姿を6年にわたり追った長編ドキュメンタリー映画『ジム』(03)、90歳になる実の祖母の「住み慣れた家の取り壊し」をモチーフにした第2作『ツヒノスミカ』(06)などのドキュメンタリーを発表。『ツヒノスミカ』で、スペインの国際ドキュメンタリー映画祭 PUNTO DE VISTA ジャン・ヴィゴ賞(最優秀監督賞)を受賞する。2012年、初の劇映画『カミハテ商店』(出演・高橋惠子 寺島進ほか)を監督。同作は島根県隠岐郡海士町の全面支援のもと撮影され、第47回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭でメインコンぺ部門12作品の1本に選ばれた。京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)映画学科で、プロのスタッフと学生による映画製作プロジェクト「北白川派」を推進。『のさりの島』はその第7弾にあたる。

公開情報

『のさりの島』は、静岡県の下記の映画館で2021年7月2日(金)より上映

■静岡エリア:シネシティザート/シネマイーラ

6/20(日)静岡シネ・ギャラリー先行イベント上映開催!

更新日:2021/6/18

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