【カレーと喫茶 あまりろ】みんなの“普通のカレー”がある心地よさ
まちの案内人にお気に入りのお店やスポットを紹介してもらう、「わたしの散歩みち」。今まで知らなかった楽しみ方やディープな情報を見つけて、このまちの「好き」を再発見する散歩へ出かけよう。記念すべき第1回目である、北街道周辺の案内人は「カレーと喫茶 あまりろ」の小亀さちさん。まずは小亀さん自身のお店について深掘りしてみた。
案内人:小亀さち さん
北街道界隈周辺の案内人は、『カレーと喫茶 あまりろ』の店主 小亀さちさん。テイクアウト販売のカレー店からはじまり、現在は店舗を構える中で知り合ったお店の方やよく行くお店など、“あまり人に教えたくない”というお気に入りのスポットをこっそり教えてもらった。
グルメ・鷹匠「カレーと喫茶 あまりろ」
常連さんがたくさん!
静岡鉄道の日吉町からトコトコおさんぽへ向かうのは、北街道周辺エリア。繁華街のある新静岡駅からたったひと駅なのに、大きなビルは減って、顔を上げればてっぺんまで目で見ることができるビルがちらほら。一戸建ての住宅と、小さな商業ビルが混じり合う不思議なエリアだ。
「赤ちゃんから93歳のおばあちゃんまで来る、おいしいカレー屋さんができたらしいよ」とうわさを聞きつけて、「カレーと喫茶 あまりろ」へおじゃました。
リンリーンとベルが響く木製のドアを開けたら、甘いような香ばしいようなカレーのにおいがふわり。学校の帰り道によく嗅いだ、どこかの自宅から「今日はカレーだな」と鼻をくんくんしたくなる懐かしの匂いだ。
愛らしい笑顔で「いらっしゃいませ」と顔をひょっこりだしてくれたのは、店主の小亀さちさん。
「だれもが好きな時間に、毎日食べておいしいなと思ってもらえるカレーを作ってます」と、11時〜17時の通しで営業している。
カレーの注文を待っている途中にも、常連のサラリーマンの方が来たり、「前来ておいしかったから」と二人組のおばさまたちが来たりと、大忙し。一度食べにきたら、通い続けたくなる魅力があるようだ。
違和感のない“普通”を目指して
実は小亀さん、元々は東京出身だそう。静岡とは縁もゆかりもなかったけれど、駿河区緑ヶ丘町にあった自然食のカフェ「RAMA」で働きたいと、身一つでやってきた。
2年間働いたけれど残念ながら閉店してしまい、「これからどうしようかな。店をやってみたいけれど、難しいから東京に帰ろうかな」と悩んでいたところ当時バイトをしていたたい焼き屋さんが「じゃあうちの店先で、店をやってみなよ」と後押しをしてくれた。
何をしたいかもまだ決まっていない中での後押し。「たくさんの人に喜んでもらえるものはなんだろう?」そこで思いついたのがテイクアウトのカレーだった。
小亀さんが目指したのは「普通だけどおいしいカレー」。簡単なようで、とてもハードルが高い。普通というのは、ありきたりなように見せかけて、すべての年代の人に受け入れてもらえるものを作らなければならない。
始めはスパイスをたくさん使ったものや、肉を入れないヴィーガン仕様のものなど、さまざまなカレーを試作した。試食してもらっては「肉がないとカレーじゃない」や「スパイスは苦手」など、厳しい意見がちらほら。「純粋においしいと、年代問わず思ってもらえるポイントってどこなんだろう?」と、めげることなく研究し続けた。そのなかで見つけたのが「家庭の味」を再現したカレーだった。
しばらくはたい焼き屋さんの店先でテイクアウト販売をしていたけれど、偶然空き店舗が見つかり、店をオープンすることに。より研究に研究を重ね、やっと今のあまりろのカレーが完成したそうだ。「店をオープンするまで、丸3ヶ月ほどは毎日試作を繰り返していて、朝昼晩全部カレーを食べていました。最後の方は、もうカレーが嫌いになっちゃいそうになっていましたね(笑)」
旨味のヒミツはシイタケ
市販のルーを使わずに家庭の味を再現するのに、一番苦労したのが旨味だった。
「化学調味料を使わず、素材だけで市販されているような旨味を出すにはどうすればいいかは本当に悩みました。ヒントになったのが、RAMAで働いた経験です。自然食では肉の代わりにキノコ類を使うんです。なので、シイタケを使えばうまくいくかなと挑戦しました」。
シイタケをみじん切りにして調味料で味付けたペーストを使った試作が大成功! シイタケの食感や風味などをまったく感じさせることなく、その一皿は「お母さんのカレー」「いつもの食べ慣れたカレー」そのものだった。
とろりとしたルーに、国産のジャガイモやニンジンがゴロリ。歯ごたえのいい豚肉が、より食欲をそそる。
一口目は「いつものカレー」なのに、次第にほんのりスパイスが口の中に広がり、後口はスッキリ。カレーを食べた時特有の脂っこさがまったくなく、お腹がいっぱいでもつい「おかわり!」と言ってしまいそうな食べやすさだ。
「自分が作ったものをおいしいと言ってもらえるのが本当にうれしくて。けれど、まだまだ発見があるので、おいしいの探求はつきませんね。もっともっと、お客さんにとって“当たり前”においしいカレーを目指したいですね」
撮影:水上 奈保/モデル:鈴木 茉吏奈
フリーランスの編集・ライターとして雑誌や広告に携わる。次世代につなげたい伝統・文化や、大切に育まれた人柄・物事を、本質から伝えたいと日々精進中。
わたしの散歩みち まちの案内人が紹介するあのお店のこと、あの店主のこと。そして、このまちの「好き」を再発見する散歩へ出かけよう。