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【HiBARI BOOKS&COFFEE】今必要な本が、するすると手元にやってくる

【HiBARI BOOKS&COFFEE】今必要な本が、するすると手元にやってくる

まちの案内人にお気に入りのお店やスポットを紹介してもらう、「わたしの散歩みち」。今まで知らなかった楽しみ方やディープな情報を見つけて、このまちの「好き」を再発見する散歩へ出かけよう。北街道周辺の案内人は「カレーと喫茶 あまりろ」の小亀さちさん。今回は、小亀さんのお気に入りスポットだという「HiBARI BOOKS&COFFEE」を深掘りしてみた。

「カレーと喫茶あまりろ」の店主の画像

案内人:小亀さち さん
北街道界隈周辺の案内人は、『カレーと喫茶 あまりろ』の店主 小亀さちさん。テイクアウト販売のカレー店からはじまり、現在は店舗を構える中で知り合ったお店の方やよく行くお店など、“あまり人に教えたくない”というお気に入りのスポットをこっそり教えてもらった。

書店・鷹匠「HiBARI BOOKS&COFFEE」

本から呼びかけられる驚き

「あ、こんな本屋さんが、ずっとほしかった」。初めて『HiBARI BOOKS&COFFEE』へ訪れたとき、心の中でつぶやいた感想だ。
「本を選ぶときはどういう基準で選んでいますか?」こう問いかけられれば、「今必要としている本を選ぶよ」という人が大多数を占めているだろうか。ひと昔前までは、本というのは「本屋に行かないと買えないもの」だった気がする。けれど、現在はスマホ片手に指一本で、必要な本が数分で手に入る。
「なんて味気がないんだろう」と、私もAmazonなどで買ってしまうから大声では言えないけれど。

鷹匠の書店「HiBARI BOOKS&COFFEE」の内観画像

デザイン書、画集、写真集などもずらり

「探している本はないかもしれないけれど、発見がある本屋でありたい」。そう話してくれたのは店主の太田原由明さん。
大型書店とは違い、さっと歩けば1分ほどですべて見て回れるこじんまりとした店内。並んでいるのは、雑誌や小説、エッセイ、実用書、ビジネス書、専門書、絵本など一見普通の本屋さんと変わらない。けれど、つい一冊一冊に目が留まってしまい、たった一周するだけで数十分かかってしまった。

「この前会った人がおすすめしていた著者だ」
「あ、雑誌で紹介されていた人の本だ」

気になってしまうタイトルや、一癖ある装画の表紙。自分から本を選ぶのではなく、本から選ばれる感覚がじわりと広がる。たまたま手にとった本なのに、「そうだ、こういうのが知りたかったんだ」と、つい何冊も抱えてしまう。

本を買うというのは本来、手に取って、一期一会を感じて、大切に家に持ち帰るものだったと思い出させられた。

鷹匠の書店「HiBARI BOOKS&COFFEE」に置かれた文芸誌『USO』の表紙画像

『USO』(rn press)。「嘘」をテーマとしたエッセイや漫画、写真などが詰まった文芸誌。若い世代がよく手にするという


鷹匠の書店「HiBARI BOOKS&COFFEE」の内観画像
鷹匠の書店「HiBARI BOOKS&COFFEE」に置かれた雑誌『OZOUNI』の表紙画像

大切に選ばれた本たち

太田原さんが『HiBARI BOOKS&COFFEE』をオープンしたのは、2020年9月。元々大型書店の書店員をしていたが、静岡市内の本屋が次々と閉店していく様子に、「こんな大きな都市なのに、良い本を扱う本屋が少ないのはなんだか恥ずかしい」と、オープンを決めた。

「出版業界では、毎日300〜400冊の新刊が実はでているんです。年間だと7〜8万冊ですね。その多くは、読み捨てられるものだったり、返本されてしまうものだったり、さまざまです。大型書店では全方位全方向のジャンルを扱うことができますが、うちは小さな書店。だからこそ、読み捨てられることのない、読み手が“大切にしたくなる本”をなるべく選んでいます」。

膨大な数の本が出版されるなか、一冊一冊を選ぶのは尋常ではない地道な作業だろう。それでも、太田原さんはピンと来た本を仕入れては、どれも一度はさっと目を通して棚に並べている。本離れが叫ばれる時代に、扱っている本をほとんど把握して並べている本屋さんというのは、どれだけあるのだろう。

鷹匠の書店「HiBARI BOOKS&COFFEE」の店主・太田原由明さんの画像

穏やかに話をしてくれる店主の太田原由明さん

本というのは、知識を得るためだけのものではなく、“他者との出会い”でもある。たった数時間、たった数百ページのなかに、ひと一人の、大げさに言えば一生分の人生や想いが詰まっているからだ。
それが、たった数百円、たった数千円で手に入る。これは奇跡の出会いと言ってもいい。けれど、奇跡というだけあり「これだ!」という本に出会える機会はとても少ない。

目的を持って買いに行ってしまうと、目的以外のものが目に入らなくなる。また、目的を持っていなくても、目に映る量があまりにも多すぎて、迷子になってしまうことが多々ある。そんな、さも難しい本との出会いが、ひばりブックスにはある。

鷹匠の書店「HiBARI BOOKS&COFFEE」の内観画像

まだ知らぬ本と出会いを求めて

私が驚いたのは「何かおすすめの本はありますか?」と尋ねたときに、抱えていた数冊を見て「こういう著者が好きなら、この本が好みだと思いますよ」と、さっと案内してくれたことだ。ジャンルを把握して、すぐ提案してくれる。まさしくプロの仕事だな、と感動した。

鷹匠の書店「HiBARI BOOKS&COFFEE」に置かれた書籍『庭とエスキース』の表紙画像

おすすめしてくれた『庭とエスキース』(みすず書房)。じっくり時間をかけて記録された写真と文章が心に染みる

「本屋というのは、店に入って、何も買わなくても許される。手にとって見て、棚に戻してさっと出ていっても罪悪感が生まれない。ある意味、特殊なお店だと思います。だからこそ、気軽に寄ってほしいし、その中で小さな発見を感じてくれたらうれしいですね」。

10代のころから本が好きで、書店で働いてそのまま書店員となり、今は本屋の店主となった太田原さん。働けば働くほど、なぜか本をじっくり読む機会が減ってしまっているそうだ。
「10代のころはずっと本を読んでいましたが、今は寝る前くらいしか時間が取れないのが少し寂しいですね(笑)。そんななか本の話をお客さんとするのは、勉強にもなるし、とても楽しいです。買っても買わなくてもいい、それが本屋さん。のんびりと、本を知ってもらえれば。こんな本が読みたい、知りたい、というのがあればいつでも話しかけてください」。

ふらっと訪れて、気になる本との出会いがあるのは、小さな書店の、ひばりブックスならではの魅力だろう。出会えた一冊とともに、店の奥でコーヒーを飲みながら本の世界に浸る贅沢を楽しみたい。

鷹匠の書店「HiBARI BOOKS&COFFEE」のカフェスペースでコーヒーを飲みながら本を読む女性の画像
鷹匠の書店「HiBARI BOOKS&COFFEE」のカフェスペースでコーヒーを飲みながら本を読む女性と、「HiBARI BOOKS&COFFEE」店主の画像

店内奥はカフェスペース。ブレンドコーヒーやカフェラテ、隣店『スウィング』さんのケーキもいただける

鷹匠の書店「HiBARI BOOKS&COFFEE」のカフェスペースでコーヒーを飲みながら本を読む女性の画像

鷹匠の書店「HiBARI BOOKS&COFFEE」の入り口と入店する女性の画像
鷹匠の書店「HiBARI BOOKS&COFFEE」の外観画像

案内人からのおすすめポイント

店主こだわりの本と、奥にギャラリーの展示、コーヒーが飲めるスペースがあります。まるで東京の六本木にあるような素敵な雰囲気です。店主のお兄さんがカッコイイです!(笑)


撮影:森島 吉直/モデル:鈴木 茉吏奈

『HiBARI BOOKS&COFFEE』の基本情報はこちら

ライター
町 紗耶香

フリーランスの編集・ライターとして雑誌や広告に携わる。次世代につなげたい伝統・文化や、大切に育まれた人柄・物事を、本質から伝えたいと日々精進中。

紹介スポット

静岡市葵区

HiBARI BOOKS&COFFEE(ひばりブックス)

オーナーが1冊1冊セレクト。カフェとギャラリーを併設する書店

更新日:2023/4/5
コラムシリーズイメージ

わたしの散歩みち まちの案内人が紹介するあのお店のこと、あの店主のこと。そして、このまちの「好き」を再発見する散歩へ出かけよう。

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