【Bar&Live 炉辺人】ジャズ生演奏とお酒とコーヒーと
まちの案内人にお気に入りのお店やスポットを紹介してもらう、「わたしの散歩みち」。今まで知らなかった楽しみ方やディープな情報を見つけて、このまちの「好き」を再発見する散歩へ出かけよう。北街道周辺の案内人は「カレーと喫茶 あまりろ」の小亀さちさん。今回は、小亀さんのお気に入りスポットだという「Bar&Live 炉辺人」を深掘りしてみた。
案内人:小亀さちさん
北街道界隈周辺の案内人は、『カレーと喫茶 あまりろ』の店主 小亀さちさん。テイクアウト販売のカレー店からはじまり、現在は店舗を構える中で知り合ったお店の方やよく行くお店など、“あまり人に教えたくない”というお気に入りのスポットをこっそり教えてもらった。
バー・鷹匠「Bar&Live 炉辺人」
一人だからこその居心地の良さ
メイン通りから少し中に入った道を歩いていると、重厚な木製扉の隙間から軽やかなジャズ演奏が漏れてきた。ここは鷹匠で50年近くの歴史を持つ『Bar&Live 炉辺人』。店主の望月健一さんはなんと4代目だそうだ。お酒と音楽、それにコーヒー。気軽にふらっと寄りたくなる魅力が、ここにはあった。
「BARってなんだかハードルが高いな……」「一人で行っても馴染めるのかな……」なんて、BARと聞くとなかなかあと一歩が踏み出せない人も多いのではないだろうか。そもそもBARの魅力とはなんなのか。炉辺人を伺ったときにちょうど居合わせた、20年来の常連さんが色々教えてくれた。
「なんて言うんだろう、BARはサードプレイスという感じかな。仕事でもない、家庭でもない、第三の顔を気兼ねなく見せられる場所かしら」。
居酒屋であれば仲間とワイワイと、レストランであれば恋人としっとりと、訪れる場所によって人は表情を変える。そのなかでもBARは、特に炉辺人は、「ただお酒と音楽が好きなだけの自分」でいられる貴重な場所だそうだ。
「居酒屋で一人でいるのは少し寂しいけれど、BARはむしろ一人がいい。一人なのに“孤独を癒せる場所”かもしれないね」と、教えてくれた。
楽器を演奏するためでもある場所
オープンから少したったあと、ある一人の男性がピアノを演奏し始めた。曲目はジャズの名曲『Misty』。アップライトピアノから繊細なのに大胆な旋律が店内に響き渡る。CDではない、ポータブル器ではない、生の演奏。音楽が始まると、お客さんは少しだけ声をひそめながらも会話を続け、お酒を楽しんでいた。
ここはジャズBARなので、ミュージックチャージを払えば誰でも演奏できるという。お酒を楽しむだけでなく、楽器を自分で奏でたい人たちにも大切な場所だ。お酒を片手にリラックスしながら、生の演奏に耳を傾けるのがこんなに心地よいことだったなんて、初めての体験かもしれない。
炉辺人では毎週水曜日は「Jam sesion」、週末は定期的にジャズライブを開催している。ふらっと気兼ねなく訪れて、生演奏を聞けるのはジャズBARならではだ。
「生演奏のよさってなんだろう」とふと尋ねたら、「生演奏って、子どもから大人まで年齢関係なく音を体感できることかな。音が体に響いて、心地よさを感じ取れる。スピーカーから流れる一定の音じゃなくて、音の強弱も直に感じ取れるのは生演奏の特権かも」と、常連のお姉さん。
ジャズというのは、同じ曲を演奏していても奏者によってまったく雰囲気が異なるそうだ。ただお酒と音楽が「好き」という共通の想いがあるだけで、一人で訪れても自然と一体感を感じる不思議な魅力が満ち溢れていた。
この場所を少しでも長く残したい
望月さんが炉辺人を継いだのは約9年前だそう。前のオーナーが「もうやめるよ」という話が出たときに、当時10年近く常連だった望月さんが「この場所をなくしたくない」と手をあげたそうだ。
常連のお姉さんいわく、「けんちゃんが継いでくれなかったら、居場所をなくして泣いちゃう人が多かったかも(笑)」。
好きな場所、好きな音楽、好きなものをより提供したいと、望月さんが引き継いでから新たに加わったのが極上の“コーヒー”だ。このコーヒーは、足久保にある『大地の珈琲豆』のもの。備長炭でじっくり自家焙煎していて、深いコクが夜の雰囲気に合う。
「BARにコーヒー?」と、少し不思議な感じもするが、お酒を飲めない人もコーヒーを片手に音楽に耳を傾けられる。誰も彼もを優しく包んでくれるのは、望月さんの優しい想いにあるのかもしれない。
炉辺人を継いでからの日々は、「大変だけど、楽しい」と笑顔で話してくれた望月さん。訪れる人の年齢はバラバラで、長くお酒を飲んで過ごす人もいれば、一曲聞いてコーヒーを飲みすぐ帰る人もいるそうだ。
ずっと愛され続けられてきている場所だからこそ、ジャズやお酒に詳しくなくても一度入ればまるで常連のような気分にさせてくれる。長い年月をかけないと生まれない独特なエイジング感が、初めて訪れた人にもゆったり居心地の良さを感じさせてくれるのだ。
一度扉の先をのぞいてみたら、「また来たいな」と思ってしまうのは、何十年と受け継がれてきた想いがこの場所に根付いているからだろう。
「“前から入ってみたかった”、“1回来てみたかった”という人が多いんですが、古い建物なのでなかなか一歩を踏み出すのは勇気がいりますよね(笑)。気軽に、音楽やお酒を味わいにきてみてください」
案内人からのおすすめポイント
本当は教えたくないくらいステキな雰囲気のあるジャズバー。生演奏が聴ける日がお気に入り。個人的にはマスターの作る焼きそばが大好きです! お酒にも詳しい気さくなマスターなので、1人の女性の入店もオススメ(ただし入り口はめちゃくちゃ入りづらい雰囲気、またそこもいい!)。
撮影:森島 吉直/モデル:鈴木 茉吏奈
フリーランスの編集・ライターとして雑誌や広告に携わる。次世代につなげたい伝統・文化や、大切に育まれた人柄・物事を、本質から伝えたいと日々精進中。
わたしの散歩みち まちの案内人が紹介するあのお店のこと、あの店主のこと。そして、このまちの「好き」を再発見する散歩へ出かけよう。