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植物を通してあたたかな空間をつくり出す。『ANTIDOTE(アンティドート)』

植物を通してあたたかな空間をつくり出す。『ANTIDOTE(アンティドート)』

さまざまなキーワードでwomo読者がおすすめするスポットを聞き込み調査&取材を実施。今回のキーワードは「観葉植物」。

中間であることがむずかしい時代に

静岡市葵区の観葉植物店『ANTIDOTE (アンティドート)』の店内と店主小山さんの画像
静岡市葵区の観葉植物店『ANTIDOTE (アンティドート)』の入り口の画像

新静岡セノバより徒歩3分。道ゆく人に、ふと足を止めてもらえるようなお店づくりを意識している

静岡市葵区の観葉植物店『ANTIDOTE (アンティドート)』の天井にディスプレイされたドライフラワーの画像

伝馬町通りを歩くと目に留まるのは、ずらりと植物がディスプレイされたショーウィンドウ。惹かれるままドアを開けると、天井から床まで隙間なく配された種々雑多な植物に胸が躍る。しかし、“乱雑”な印象はない。このラインアップにも関わらず空間が洗練されているように感じられるのは、根底に確固とした店主のこだわりが息づいているからだ。

コンパクトな空間に多彩な植物が並ぶ『ANTIDOTE(アンティドート)』は、2017年8月に産声をあげた。
10年間のアパレル勤務を経て観葉植物店として独立した店主の小山さんは、当時の葛藤を次のように語った。
「ファストファッションが流行り出して、勤めていた店の売り上げが落ちていったんです。生活の考え方が変わりだし、求められるのは高価で高品質なものか、安価で手軽なものかという二極化が表面化してくるのを肌で感じていました。それ以外が少しずつ淘汰され、“中間であること”がむずかしくなっていった時代でした」

自分の店を持ちたいという強い思いと同時に、時代の変化を感じていた。ちょうどそんなとき、先輩にもらった植物がきっかけで趣味になっていた観葉植物の栽培や収集を、ビジネスにつなげられないかと思ったことが契機だった。

「自分を含め、服が好きな人は“こだわり”を追求する気質という点で、家を飾る観葉植物を育てたり集めたりすることに親和性があるように思えたんです。実際、服屋のお客さんにもそういった趣味を持っている方がちらほらといらっしゃいました」

アパレル勤務時代、アクセサリーの買い付けでタイを訪れた際に、覗きにいった観葉植物の市場でその独特な魅力に目を奪われた。小山さんはその時の光景が忘れられず、勤務先を退社しタイに向かった。
「現地の物を見て、これはみんなに喜んでもらえるんじゃないかって、一閃しました」


しかし、“石橋を叩き割る”ほどに心配性な小山さんは、自分のお店を始めることがとても不安だったという。
「何かを始める前って一番不安になりますよね。でもその不安に勝つには、それに勝る何かがないとできないと思うんです」
小山さんにとって、“それに勝る何か”とは、“植物が好き”という思いだった。そうしてできたのが『ANTIDOTE』だ。

“中間であること”がむずかしい時代に、なお中間層にこそ、これからのビジネスのヒントがあるようにも思えた。小山さんの揺らぐことのない“店のイメージ”にも合致する。
これから、ブームとなったスニーカーのように、観葉植物のコレクションを楽しみ家を飾る人が増えていくのではないか。小山さんはそのように考えた。面白さを見いだしたのは、静岡の一般的な家庭ににおいて、インテリアとしての多肉植物や観葉植物の浸透がまだまだ浅い頃だ。

静岡市葵区の観葉植物店『ANTIDOTE (アンティドート)』の多肉植物の画像

人と人とをつなぐための、小山さんなりの作法

お店を始めた頃から「常に動く」をモットーに活動していた小山さん。
タイから買い付けてきた植物をギャラリーのように展示しながら営んでいた店は、徐々にスタイルを変化させていった。農家に赴き、「こんなお店をやっているのですが、ぜひご指導をお願いします」とあたるなか、縁を結んでくれた方の提供で、だんだんと店内に置かれる植物の種類が豊富になっていった。

次第に、そこで知り合いになった方々に静岡の植物関連のイベントなどに呼ばれるようになっていった。それに参加しているうちに、静岡パルコやマークイズ静岡へのテナント出店の話が舞い込む。ショッピングモールの広いスペースを活かし、路面店には置けなかった大きなサイズの観葉植物も扱えるようになったという。関東へのイベント出店も続々と決まっているそうだ。
さまざまな場面で見かける『ANTIDOTE』に、ある人からは「いつの間にあの界隈と親交を結んだの?」、またある人からは「どうやったらそんなにあちこちで出店できるんだ」と問いかけられる。

「ご縁があった方に紹介してもらったり、それに対してていねいに対応していけば、人が人をつなげていってくれる。それに尽きますね」

小山さんが言うていねいな対応とはなにか。それは依頼を断らない“姿勢”だと言う。
「例えば、出店の依頼があったとして、条件的に難しい場合でもどうにか解決方法を考えます。今までの例だと、東京にイベント出店した時。ポップアップストアといってもかなりの長期間だったので、スタッフが東京に引っ越す必要があったんです。かつて東京で勤務しており、関東に住むことに慣れている者や、神奈川出身の昔からの友人に頼んだりしながら、工夫してなんとか乗り越えました」
さまざまな事柄に対してポジティブに行動することによって、チャンスが巡ってくることを小山さんは教えてくれた。

静岡市葵区の観葉植物店『ANTIDOTE (アンティドート)』の店主小山さんの画像

とても穏やかな雰囲気の店主の小山さん。あたたかなお店の雰囲気にもつながっている

「身近な観葉植物屋さん」を目指して

最近では静岡でも見かけるようになった観葉植物店だが、過去もお店が無かったわけではないと小山さんは言う。ただし、位置付けとしては“プロ・マニア用”の店という印象が強い。
「何万もする商品だけが置いてある観葉植物屋はハードルが高い。昔から存在していても、“すごい物が置いてある”けれど、“なかなか気軽に足を運ぶことができない”店、という感じ。だから『ANTIDOTE』では、中間層の人たちがコレクションを楽しめるよう、リーズナブルな物も置いています。そこから身近に感じてもらえるようにと思って」

静岡市葵区の観葉植物店『ANTIDOTE (アンティドート)』の店内の画像
静岡市葵区の観葉植物店『ANTIDOTE (アンティドート)』の多肉植物(サボテン)の画像

「路面店の他にもショッピングモールへ出店することで、ライト層にも“観葉植物は気軽に楽しめるもの”だと伝えたかったんです。ショッピングモール内にあれば目に留まりやすいので「これは何だろう?」と興味を持ってお店に足を踏み入れてくれる。ただし、観葉植物や多肉植物は、お花と違って色味が少ないので、静岡パルコやマークイズ静岡では路面店と差別化して、カラフルな鉢を置いています。鉢と植物を組み合わせて提案すると喜んでいただけますね」

大型複合施設での出店が成功裏に進んでいるのは、アパレル業界の経験があってこそだ。ショッピングモール内で洋服の販売を経験した後に、路面のセレクトショップに移った小山さん。そこで身に付けたいくつもの販売方法や立ち振る舞いをうまく融合させていくことで、路面店とは異なる客層に出会うことができた。

「お客さんが路面店とショッピングモールの店舗を行き来してくれたことで、コア層がメインだった路面店の客層も幅が広がった。観葉植物自体、少しずつ身近なものとして認識が変わってきているのではないかと思います」と小山さんは語る。

「枯らしてしまったら困るから、と恐るおそる植物を選んでいたビギナーが、さまざまな品種について話したり、むずかしい品種にチャレンジできるくらいハマっていっているんですよ」

『ANTIDOTE』が一番大切にしていることは「お客さまとのふれあい」だ。
「植物の知識より何より大切だと思います。お客さんがいてくださって初めて成り立つ仕事ですからね。一人でも多くの方に店に親しんでもらいたいです。ここに来れば必ずいい物があると思ってもらえるように、お客さまとのやりとりや心のふれあいで満足していただけるように、日々勉強させてもらっています」

小山さんがひとりひとりのゲストと向き合い、その人や個々の家の環境に合った提案をしてきたことが植物への愛着や親しみを生む。それによってまた『ANTIDOTE』への親しみを育んだのではないだろうか。

静岡市葵区の観葉植物店『ANTIDOTE (アンティドート)』の多肉植物(サボテン)の画像
静岡市葵区の観葉植物店『ANTIDOTE (アンティドート)』の人気種、アガベの画像

人気種のアガベ

静岡市葵区の観葉植物店『ANTIDOTE (アンティドート)』で売られている清水区の観葉植物店『LILWA』のエアプランツの画像

清水区にある観葉植物店『LILWA(リルワ)』のエアプランツにも出合える

小山さんたちがつくる『みんなが楽しくなるサイクル』

こだわりを持ったブランドの服が好きだった小山さんは“手に入りにくい物”の強みを知っている。実は、そういう“手に入りにくい物”こそが静岡にあるのだという。
静岡で育てられた多肉植物やサボテンは全国的に見ても形がとても綺麗で、レアな品種も生産されている。それは、質の高い物を育てることができる生産者が多くいるということ。『ANTIDOTE』の強みは、そういった生産者とのつながりから、レアなものや質の高いものが多く揃っていることだ。

さらに、店頭に並べる前に、必ず自身の目で選定することで植物の品質を担保している。
「“この種類なら何だってあり”という考え方はしない。いくつかの同じ品種の株があれば、しっかりと見極めてその中でいちばん質の良い物を選ぶようにしています」


生産者と観葉植物を愛する人たちそれぞれが楽しくなるサイクルを作りたいと小山さんは語る。
「静岡の生産者の方々が育てた質の高い植物を僕たちが仕入れて『ANTIDOTE』で売り出すことで、静岡や東京の人たちに広く届けることができる。それを繰り返していけば、みんなが楽しくなれると思うんです」

静岡市葵区の観葉植物店『ANTIDOTE (アンティドート)』で販売している注目度の高いマダガスカルさんのパキポディウムグラキリスの画像

注目度の高いマダガスカル産のパキポディウムグラキリス

静岡市葵区の観葉植物店『ANTIDOTE (アンティドート)』で販売している注目度の高いマダガスカルさんのパキポディウムグラキリスの画像

ワクワクとした気持ちを大切に

最後に小山さんは、なにごとにも“思い”が一番重要だと話してくれた。
「すべてにおいて、“思い”を抱くことが大切だと思います。商品にも、スタッフにも、周りのお客さんに対しても。自分自身も、なにもなく淡々とやっていくだけでは続けられないし、つまらないと思います。スタッフとは“こうしたらお客さんが喜んでくれるんじゃないか”とよく話しているんです。みんなで相談しながら、いいお店を作り上げていこうと思っています」
今の仕事が一番楽しいと語る小山さんの瞳は、キラキラと眩しい。

小山さんのこれまで歩んできた経験と植物に対する思いが、お店に散りばめられたひとつひとつのこだわりに変化する。それが種となり、お客さまや生産者の方々とのつながりが芽生える。今もなお、大樹となるために『ANTIDOTE』は成長を続けている。

静岡市葵区の観葉植物店『ANTIDOTE (アンティドート)』で販売している多肉植物(サボテン)が並んでいる画像
静岡市葵区の観葉植物店『ANTIDOTE (アンティドート)』で販売している植木の画像

持ち込み鉢への植え替えもOK

静岡市葵区の観葉植物店『ANTIDOTE (アンティドート)』で販売している多肉植物(サボテン)が並んでいる画像

InstagramのDMなどで、植物に関する相談にのってもらえるのも嬉しい

紹介スポット

静岡市葵区

ANTIDOTE

天井から床まで隙間なく配された種々雑多な植物に胸が躍る 多肉植物からドライフラワー、ガーデニング雑貨までそろうお店

更新日:2022/3/3

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