【丸屋 靴磨き】靴磨きを通して心を通わす
まちの案内人にお気に入りのお店やスポットを紹介してもらう、「わたしの散歩みち」。今まで知らなかった楽しみ方やディープな情報を見つけて、このまちの「好き」を再発見する散歩へ出かけよう。研屋町周辺の案内人は「chubby×eight」の尾﨑朝子さん。今回は、尾﨑さんのお気に入りスポットだという『丸屋 靴磨き』を深掘りしてみた。
【案内人】尾﨑朝子 さん
研屋町周辺の案内人は、古着屋『chubby×eight』の店主・尾﨑朝子さん。ていねいに集められた一着一着は触るだけで心地よい気持ちにさせてくれる。尾﨑さんならではの独特な嗅覚を駆使し、お気に入り店を紹介してくれた。
「オシャレは足元から」の大切さ
研屋町にある「第二金座ビル ボタニカ」の4階に、完全予約制の靴磨き専門店『丸屋 靴磨き』がある。「靴磨きを通して自分の心、お客様の心も磨きたい」と話すのは店主の渡邉広太さん。靴磨きを通してたくさんの人々と感謝に出会ってきたそうだ。
靴というのは、毎日地面を歩くので一番汚れるものであり、また私たちの体を一番支えているものでもある。日本において「靴を磨く」という習慣は少ないように感じるが、「靴を磨く」「靴を大切にする」というのは「人に信頼される」ひとつのバロメーターになる。というのは、靴磨きには「忍耐力」や「段取る力」がいる。
日々汚れていくものだからこそ、手入れを定期的にしなければならないし、時間も作らねばならない。装いが靴まで行き届いているだけで「安心感」が生まれるのは、そういった目に見えない心遣いが想像できるからかもしれない。
ご縁がつながり靴磨き職へ
渡邉さんが靴磨きを始めたのは26歳のころ。友人の結婚式のために買った良い革靴を「できるだけ長く履きたいな」というのが靴磨きの世界へ入るキッカケだった。
「ひょんなキッカケでしたが靴磨きを始めたら楽しくて楽しくて。どうやればキレイになるのかな、長持ちするのかな、と一人で試行錯誤し続けていました」
革靴を磨くのは1〜2か月に1回行うのがベスト。素材が革なので、あまりに多く磨きすぎると革がすり減ってくるし、また手入れを怠れば革にどんどん汚れがたまり硬くボロボロになっていく。「もっと靴磨きをしてみたい」と思ったけれど、なかなか磨けるタイミングが少なくてうずうずしたそうだ。
「革靴持ってない?磨いてあげるよ」と、声をかけたのは友人たち。初めは研究したい一心だったが、このことが大きな転機となった。
「“ありがとう”とたくさん言われたんです。そう言えば、今までありがとうと言われることって少なかったように感じて(笑)。僕が楽しくやっている靴磨きをやるだけで、みんなが笑顔でよろこんでくれる。なんだかぱっと視界が開けたような気がしました」。
次第にアパレルショップや飲食店の店頭で「うちで営業してくれない?」と声がかかり、昼は仕事をしながら夜は靴磨きをするという生活へ。気がつけば磨いた靴の数は1000足以上になり、色々なご縁がめぐりにめぐって「第二金座ビル ボタニカ」に2018年から靴磨き専門店を構えることになった。
じっくり話し込めるプライベートな時間
靴磨きをする上で一番大事にしているのは「お客さまとゆっくりお話しすること」。その靴をお客さまがどれだけ大事にしているか、どのような経緯で靴がやってきたのか、普段どのように履いているのか、どのような仕上げが好みなのか……。1時間の予約枠内でじっくりヒアリングする。
「お客さまによっては、"安いものだから靴磨きに持ってくるのも悩んだのだけれど……”とお話しされる方もいます。大事なのはお客さまがいかにその靴を大切にしているのか。靴自体の値段ではなく、その想いが価値です。お客さまの大事な靴をお預かりして扱うからこそ、靴を預けてくれる"心"も大切に扱いたいと思っています」
アンティークな雰囲気ただよう落ち着いた店内。大きなカウンターにまるで宝物のように革靴を置いて、お客さまと話を始める。預かる靴のエピソードを伺うと、プレゼントされたものだったり、自分へのご褒美で奮発して買ったものだったりと、一つ一つ大切なストーリーがあるそうだ。
ただ靴を磨くのではなく、ゆっくり時間を取るのは「心まで元気にピカピカになって帰ってもらいたい」という渡邉さんの思いやりを感じる。「これまで何千足と靴磨きをしてきましたが、どんな人も、どんな靴も、一度たりとも同じであることはありません。だからこそ毎回新しい気持ちで人に、靴に、向き合っています」
街の活性化で恩返しを
靴磨きを通して心もほぐしてくれる渡邉さんだが、最近では「たくさんのご縁をくれた静岡市にも恩返しをしたい」と、イベントの企画もしている。
「あまりにも大勢の方にお世話になったので、どうやったら役に立てるか考えました。人をたくさん静岡市に呼べば、回り回って循環が生まれて繋がりが増えるんじゃないかと願っています」。
2022年1月には、アパレルショップを営む友人2人とともにドレスコードありの「フクワのパーティ」を開催。オシャレをして街に繰り出すことで、オシャレを楽しむ心が豊かになることや新たな出会いで心が満たされてほしいという想いものせた。
「オシャレって一人だけですると浮いたりすることもあって勇気がいるんです(笑)。仲間がいれば、勇気が持てる。革靴を履いて、ジャケットを着てオシャレを楽しむことを諦めずに楽しんでほしいですね。どんなことがキッカケでもいいんです。僕は靴磨きが専門職ですが、こういったパーティに来ることでもみんなが元気になってくれたらうれしいですね」
案内人からのおすすめポイント
靴を磨いている最中も話ができるので、想像している靴磨きとはひと味違います。渡邉さんは見ている先が大きいので、きっと新しい刺激がもらえると思います。
撮影:森島 吉直/モデル:鈴木 茉吏奈/衣装提供:chubby×eight
フリーランスの編集・ライターとして雑誌や広告に携わる。次世代につなげたい伝統・文化や、大切に育まれた人柄・物事を、本質から伝えたいと日々精進中。
わたしの散歩みち まちの案内人が紹介するあのお店のこと、あの店主のこと。そして、このまちの「好き」を再発見する散歩へ出かけよう。