ちょっと、ひと息。コーヒータイム/羅比亜 (らびあ)
さまざまなキーワードでWOMO読者がおすすめするスポットを聞き込み調査&取材を実施。今回のキーワードは「喫茶店」。清水区にある『羅比亜』へ取材に訪れ、店主の目崎さんにお話をうかがった。
JR東海道線清水駅を下車し、ゆったりした午後の日差しの中清水駅前グルメ通りを歩く。インデアントミーの赤い立て看板に誘われて立ち寄ると、昭和レトロな空間が広がる。1976年創業の『羅比亜(らびあ)』は、地元清水をこよなく愛する人たちの憩いの場だ。
清水もつカレー発祥の店や老舗居酒屋が立ち並ぶ清水駅前グルメ通りにひっそりと佇む『羅比亜』。「人に指示するよりも何でも自分でやる方が、向いているんだよなあ。」と話すマスターが、22歳の時に実家でもあったこの建物でお店を始めたそう。
喫茶店をやりたいと思ったきっかけは、高校時代に遡る。当時通っていた喫茶店で、店主がコーヒーを淹れる姿に魅了された。「コーヒーを飲んでほっと一息ついて、リラックスしてもらえる空間にしたい」という思いから、「COFFEE & REST」を看板に掲げた。
マスターの人柄がそうさせるのか、長年作りあげられてきたこの心地よい空気感の中にいてコーヒーを飲んでいると、確かにホッと力が抜け、自分らしさを取り戻せた気がしてくる。
取材中、入れ替わり立ち替わり馴染み客がやってきてはマスターと気の置けない会話をしていく。いい意味で、”好き勝手”できる距離感も、地元の人が通う名店ならでは。
仕事場や家でもないサードプレイスとしての喫茶店は、はるか昔からずっと、ここに存在していたようだ。
羅比亜の今をつくった、あの日のリクエスト
メニューをぱらぱらとめくると、その充実度に驚く。ホットサンドにピラフ、ナポリタン、カレーにドリア、お弁当……食事メニューだけでも幅広く、「う〜ん、どれにしよう!」と、思わず唸ってしまう。うれしい悩みだ。
モーニングはドリンクセットで700円。
「長くやっているから、あれもこれもとリクエストにこたえているうちにどんどん増えちゃって。これでも減らしたんだけどね」とマスター。増えていったメニューも、お客さまへの愛があるからこそだ。
週末にはファミリーや学生さんがフルーツパフェを、平日のランチタイムにはサラリーマンがボリューム満点のお弁当を求めて賑わうそう。
この日いただいたカレードリアは清水で元祖と謳われる。アツアツ、トロトロのカレーの中に濃厚なホワイトソース。こんがりと焼かれたチーズの香りも食欲をそそる。
ふう、ふう、とドリアを口へ運ぶと、スパイスの香りとカレーの旨味が混ざりあい、そのおいしさに思わず笑みがこぼれる。2口め、3口めとどんどん食べ進み、気付けばペロリと完食してしまう。
お腹いっぱいの満足感と、心地よい空間での充実感。「次きたら何を食べようかな?」と考えるのも楽しい。
ここは清水のアラビア半島
フルーツパフェやお食事も魅力だが、マスターのコーヒーへのこだわりこそがお店のルーツ。16世紀初頭にアラブ商人がアラビア半島からコーヒー豆を世界に広めたことにちなみ、『アラビア』のアを抜いて『ラビア』と名付けた。「漢字は、辞書からコーヒーがおいしそうに見える字を選んで充てました」と目崎さん。洒落た響きに秘められた、コーヒーへの想いが垣間見えた。
ブレンドコーヒーの豆は、地元静岡の老舗「富屋珈琲店」から卸してもらう。煎りは、一般的に8段階あるとされる焙煎度合いのうちで3番目に深いフルシティローストを採用。サイフォン式で一杯一杯ていねいに淹れるコーヒーは、ほどよい酸味と苦味、まろやかなコクのある味わいが特徴だ。ミルクと混ぜても薄れない、コーヒーそのものの味が際立つ配合は、お客様それぞれの好きな方法で味わっていただけるようにとの想いから生まれた。一杯のコーヒーにも、マスターの人柄が滲み出る。
コーヒーの香りとともに広がるもの
「コーヒーではじまったお店だけど、今じゃフルーツパフェで有名だよ」と冗談めかしながらも、コーヒーにまつわる心温まるストーリーを教えていただいた。
数年前のこと。よくお店にきてはコーヒーを「おいしい」と飲んでくれる、常連の男の子がいた。『羅比亜』に通いながらハンドドリップの腕を磨いた彼はいつしか大会に出場し、好成績を収めるほどに成長。今では若手注目のバリスタとして活躍しているという。取材では必ず、マスターに教わったことを語ってくれるそう。
お気に入りのコーヒーに出会う喜び。心安らぐ味を介して広がるのは、香りや人の輪だけではなく「自分らしく」生きてゆく可能性かもしれない。
ライター:yukico 武本 夕貴子
フリーランスのWebデザイナー。人・モノ・コト本来の魅力や質感が”伝わる”デザインと文章を作るため、日々人間力向上中。座右の銘は「明らかにして見ること」。