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親子2代でつくる個性ある鮨/寿し市

親子2代でつくる個性ある鮨/寿し市

まちの案内人にお気に入りのお店やスポットを紹介してもらう、「わたしの散歩みち」。今まで知らなかった楽しみ方やディープな情報を見つけて、このまちの「好き」を再発見する散歩へ出かけよう。青葉通り周辺の案内人は『Toxic Works』の間宮貴志さん。今回は、間宮さんが日本酒と鮨を楽しみにいく『寿し市』をご紹介。

静岡の自転車店『Toxic Works』の店主・間宮貴志さんの画像

青葉通り周辺の案内人は、細かなパーツまでていねいにオリジナルで自転車を作り上げる自転車店『Toxic Works』の店主 間宮貴志さん。自転車で街を巡るからこそ発見した、とっておきのおいしい店を今回はご紹介。

鮨店・人宿町「寿し市」

常時30種類以上並ぶ魚介類に驚き

夕方5時になると紺色ののれんが掛かり、夜中1時まで明かりが灯る。ここは人宿町で鮨店を構えて40年以上の『寿し市』だ。一人で店に入る勇気がなかなか持てなくて網戸越しに覗いてみたら、二代目の井木啓介さんが出迎えてくれた。

人宿町の寿司屋「寿し市」の外観と女性モデルの画像
人宿町の寿司屋「寿し市」ののれんをくぐる女性モデルの画像

仕事帰りのグループや家族連れのほか、女性一人の人も多いそう

のれんをくぐって中へ入ると、端から端までぎっしりと旬の魚介類がずらりと並んだショーケースがまず目に入った。マグロやアジ、キンメダイにハマグリ、ウニ、ホヤと、新鮮なネタの数々に何を食べればいいのか迷ってしまうほど。「あれ?メニューは?」と探してみたけれど、メニューはない。「好きなものを言ってくれたら握りますし、そのほかのものも作りますよ」と井木さん。初めての鮨店に緊張していたけれど、ていねいに魚の種類やおすすめを教えてくれたのですっかり安心してしまった。

人宿町の寿司屋「寿し市」の二代目店主・井木啓介さんが女性モデルを迎える画像
人宿町の寿司屋「寿し市」のカウンターで魚介の並ぶショーケースを眺める女性モデルの画像

職人の道へと歩む決意

幼い頃から先代である父・裕(ゆたか)さんの働く姿を見ていた井木さん。鮨職人を目指すことを決めたのは、少し遅い25歳の時だったそうだ。「実は社会人として働くようになって初めて“鮨職人って、カッコいい仕事だな”と気づいたんですよ。幼い頃は、夜遅くまで働く大変そうな仕事をよくやってるなぁと思っていました(笑)」。子ども心にも「厳しい仕事」というイメージがあった鮨職人。修行は東京へ6年間行った。実際に扉を叩いてみたら「本当に厳しくて、僕もびっくりしました」と笑顔で話してくれた。

人宿町の寿司屋「寿し市」で語る二代目店主・井木啓介さんの画像

教科書をなぞるのではなく、自分の五感をフルに使って腕を培っていく職人の世界。つく親方によってそれぞれやり方が違い、見よう見まねで覚える。掃除から始まって、シャリの炊き方や、卵焼き、魚の捌き方・扱い方と、一つずつ積み重ねていく。自分の仕事をすばやく終えては、親方の手の空いているタイミングを見計らい声をかけ、仕事を手伝わさせてもらう。朝7時から深夜まで働く修行の日々は、「体は辛かったですけど、やりがいがありましたね。会社員のときとは違う充実感でした」。

海の幸から旬を感じる

人宿町の寿司屋「寿し市」で提供されるメニュー「コハダの握り」の画像

江戸前鮨に比べて、静岡のお鮨はすし酢がほんのり甘めだそう

「おまかせ」と注文して、まず一皿目に出てきたのは「コハダ」。ふわっと仕上げられたネタ、ほんのり甘めの酢飯、パラパラと散らされた「黄身酢(きみず)おぼろ」の食感が一体となり口の中に広がった。

人宿町の寿司屋「寿し市」で提供されるメニュー「ガリ酢巻き」の画像

二皿目の「ガリ酢巻き」は、中央のガリ酢がアクセントとなり、魚そのもののおいしさや弾力ある食感がバランスよく調和している。

人宿町の寿司屋「寿し市」でカウンター越しにメニューを提供する二代目店主・井木啓介さんと、受け取る女性モデルの画像

予算を予め伝えておけば都合に合わせて握ってくれる

人宿町の寿司屋「寿し市」で提供されるメニュー「カツオのたたき」の画像

さらにもう一品は、今が旬の「カツオのたたき」。なんと味付けにクミンを使っているそう。カツオ自体の旨みにプラスされたスパイスの香りが、より食欲をそそる。

仕入れる食材は、その日に獲れたものによって毎日変わる。例えば「コハダ」のように、5cmくらいのころは「シンコ」と呼ばれ、大きくなると「ナカズミ」、「コノシロ」と名前を変える出世魚もいる。届いた魚の状態を見て、「一番おいしくなる」よう下処理をする。そのまますぐ使えるものもあれば、魚の良さを生かすために仕込みから1〜2週間寝かせることも。塩を振ったり、酢で漬け込んだりと、一番よい塩梅を見極めるのは長年の経験がものをいう。

人宿町の寿司屋「寿し市」で提供されるメニュー「マグロのにぎり」にハケで煮切りを塗る画像

メニューがないからこその旬を感じられる「ライブ感」は、鮨店の特権だろう。
「かつて修行させてもらった親方が“自分のパーフェクトの握りは一生ない”と言っていました。繰り返し毎日鮨を握っていると、その言葉の意味がよく分かります。父親はTHE町鮨のスタイルですが、僕はもう少し自由度が高いことをさせてもらっています。どうやったらもっと素材が生かせるかなと試行錯誤しています」

人宿町の寿司屋「寿し市」のカウンターで「おまかせコース」を楽しむ女性モデルの画像

修行を終えて自分の店で働き出したとき、「父が作り続けてきた味」に井木さんは改めて「すごいな、おいしいな」と感動したそうだ。
「僕のなかでは、“職人=カッコいい人たち”でした。なので、父の姿を間近で見ていた僕にはきっと難しいだろうなと思っていました。でも会社員として働いていたときに、ふと“一生やる仕事”ってなんだろうと考えてしまって。『寿し市』を残したいと思いましたし、鮨職人はずっと積み重ねていく価値があると気が付きました。自分がカッコいいと思うお鮨屋さんを、一生かけて目指したいと思っています」

人宿町の寿司屋「寿し市」で並んで寿司を握る先代と二代目店主・井木啓介さんの画像

先代と井木さんは今もともにカウンターに立つ

人宿町の寿司屋「寿し市」のカウンターで鮨に合わせた日本酒を楽しむ女性モデルの画像

お酒の種類も豊富で、鮨によく合う

人宿町の寿司屋「寿し市」で仕込んだマグロのサクを切る画像

案内人からのおすすめポイント

すごく質のよい食材を扱っているのに、気兼ねなく注文できるのがうれしいお鮨屋さん。普通によく行きますが、たまに日本酒を「これでもか!」と頼んでもうれしいお会計です(笑)。とにかく、おいしい! 鮨ネタ以外も最高です。


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【ライター】町 紗耶香
フリーランスの編集・ライターとして雑誌や広告に携わる。次世代につなげたい伝統・文化や、大切に育まれた人柄・物事を、本質から伝えたいと日々精進中。


撮影:森島 吉直/モデル:鈴木 茉吏奈

紹介スポット

静岡市葵区

寿し市

粋なひと皿を求めて。街に溶け込む普段使いの鮨屋

更新日:2022/12/2
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わたしの散歩みち まちの案内人が紹介するあのお店のこと、あの店主のこと。そして、このまちの「好き」を再発見する散歩へ出かけよう。

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