さまざまな感性に包まれて。藤枝市の老舗喫茶店/カフェレストランサモワール
さまざまなキーワードでWOMO読者がおすすめするスポットを聞き込み調査&取材を実施。今回のキーワードは「喫茶店」。藤枝市にある『サモワール』へ取材に訪れ、店主の合月(あいづき)さんにお話をうかがった。
「デミ煮込みハンバーグが絶品らしい」そんな噂を聞きつけて、「せっかくの梅雨の晴れ間、海沿いをのんびりドライブがてら行ってみるのもいいな」と思い立ち、150号線沿いを走り向かった先はJR藤枝駅北口前。ロータリーのビル群の一角に店を構えるサモワールは、今年で創業60年の老舗喫茶店。クリーム色の外壁に丸いフォルムと赤茶色のひさしが印象的で、どことなく親しみを感じさせるビルの前の矢印看板に誘われ薄暗い階段を登る。
看板照明が入口を優しく照らす。「ようこそ」と語りかけているようだ。店内に足を踏み入れると、先ほどまでとはうって変わって開放的で明るい空間が広がっていた。「ドアをくぐったら別世界でした……」なんて、まるで物語みたいだと思いつつ、一番奥の窓際の席に腰をかけた。
デミグラスソースにこだわって10年
まずは、お目当ての「デミ煮込みハンバーグ」を注文。2日間じっくりと煮込まれたソースの芳醇な香りがふわりとあたりを包み込む。アツアツのソースをたっぷりとからめ、ハンバーグを一口頬張ると、凝縮された肉と野菜の旨味とコクが口の中いっぱいに広がる。目で、香りで、舌で、ていねいに一口ずつ味わいながらもペロリと完食。
2代目店主の合月さんがデミグラスソースにこだわり始めたのは10年ほど前のこと。料理番組やインターネットで調べ試行錯誤しながら今のレシピにたどり着いたという。「アルバイトの子と協力して一生懸命おいしさを追求したり、お客様の評判を聴きながら、コツコツと試行錯誤して今の味になりました」と、懐かしそうな笑顔を浮かべ当時を振り返る。
自慢の品を飾る場所として
サモワールは、雑貨品の収集家だったお父様が自慢の品を飾るために始めたそう。「(雑貨を集めることは)辞めようにも辞められないくらい好きだったようです」と、苦笑いしつつもこの場所に愛着を感じていることが伝わってくる。そう言われて店内を見渡すと、センスの良い調度品があちこちに飾られている。
当時はお父様の収集品ばかりだったサモワールも、月日とともにさまざまなものが集まってくるようになった。壁にかかる絵画は、常連さんの作品。あちこちに置かれた可愛らしい動物の置物は、店主のお姉様の作品だ。
「創作者の意欲やエネルギーにはいつも感動します。自分にはとてもできないなと、間近で見ているからわかります」と合月さん。ここは、喫茶店であると同時に、さまざまな感性が交わる場所でもあることが分かる。
中古カメラから懸賞品、国鉄時代の信号機に至るまで古今東西のさまざまな品が並ぶが、中でも合月さんの好みはアメリカンテイストだそう。きっかけは、若い頃に大流行した『アメリカングラフィティ』という青春映画。
「僕が20〜30代の頃は今ほど情報がないから、一つ流行ると皆こぞってそこに向かうという時代でした」
“みんな違ってみんないい”ではなく、あるべき一つの理想を求めて集う若者たちのエネルギーは、どれほどのものだったのだろう。ネオンカラーのクリームソーダを一口飲み、ひんやりと甘い炭酸の刺激とともに、当時の熱狂に思いを馳せる。
無理せず、マイペースに。感謝の気持ちで
合月さんは24歳でお店を手伝い始め、今年で42年。昭和、平成、令和と駆け抜けてきた。お店を継ぐことは自然と頭の中にあったという。「長期休みに実家に帰る度に、朝早くから深夜まで働き詰めの両親の後ろ姿を見ては、役に立ちたいなあと思っていました」
ご両親に楽をさせてあげたいと厨房にたつことは、大変でありながらも楽しい日々だったそう。
「一緒に働いてくれる学生さんとの会話に心が和んだり。学生の時の常連さんが大人になって、子ども連れでやってきてくれたり、本当にありがたいことです」
「おかげさまで人手不足に悩んだこともなく、無理せず、マイペースに続けてこられました」と、穏やかに語ってくれた。一番長く働いているスタッフは何と25年、一番短い人でも10年になるという。お客様はもちろん、スタッフにとっても居続けたくなる場所なのだろう。
そんなマイペースな店主だが、チャレンジ精神にもあふれている。昨年は御歳65にして、広島県尾道市から愛媛県今治市の間にある「しまなみ海道サイクリングロード」を1泊2日で駆け抜けた。
お店についても「常に新しいメニューのことは考えて、頭に浮かんでは調べて試しています。納得できる完成度になるまでには時間がかかりますが」と語ってくれた。
さまざまな思い出や感性に囲まれた老舗喫茶店『サモワール』。
いつ来ても懐かしく、そして新しい発見が。そんな素敵な空間に身を委ねて、ゆっくりとした時間を過ごしたい。
【ライター】yukico 武本 夕貴子
フリーランスのWebデザイナー。人・モノ・コト本来の魅力や質感が”伝わる”デザインと文章を作るため、日々人間力向上中。座右の銘は「明らかにして見ること」
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