災害が起きてしまった。そんな時はどうしたらいい?
地震、台風、洪水などの自然災害が多い日本。もし、災害にあってしまった時、焦らずに対応をするにはどうすればいいだろう。今の自分ができる最善の方法を学ぶため、静岡県地震防災センターへ伺い、正しい知識を教えてもらった。地震の揺れの体験や、災害への備え、ハザードマップの見方などもご紹介。
◆『静岡県地震防災センター』で学ぶ「今、災害が起きた時」の対処法
『静岡県地震防災センター』は「知る 備える 行動する」をコンセプトとした、南海トラフ地震をはじめとして、豪雨や土砂災害などの自然災害に備えるための施設だ。今回、案内をしてくれたのはインストラクターの望月さん。
「災害時こそ知識があれば心強いもの。気になることは、なんでも聞いてください」
地震の脅威を肌で感じておく大切さ
『静岡県地震防災センター』の1階「地震を体験してみよう」コーナーでは、微弱な揺れである震度1から南海トラフ地震の想定震度(震度7)までを、シミュレーター装置に乗って体験することができる。
まずは震度1。室内で静かに過ごしている場合など、ほのかな揺れを感じ取れる人もいる。
次に震度6弱。先ほどとは違い、足元ごと大きく揺れ始める。震度6弱にもなると壁にヒビが入ったり、瓦が落ちてくる恐れがあるそうだ。構えていた以上の揺れに戸惑い、なんとか耐えようと体に力が入る。
南海トラフ地震の想定震度でもある震度7。マグニチュード9.0。これ以上揺れるなんて考えられず、不安が募る。
「みなさん、しっかりと手すりにつかまってください」
体験者に緊張感が走る。望月さんが装置のボタンを押すと、小さな揺れが続いたあとに突然強く揺れ始めた。下から突き上げられては渦を描くように揺れ続け、必死に両足を踏ん張る。
ようやく揺れが止まったが、放心状態の人もちらほら。まだ体の中に揺れが残っているような感覚がある。想像をはるかに超えた大きな揺れに、強い恐怖を感じた。
「正しく恐れるということを、この装置で体感してほしいです」
震源地によっては、地震の後に津波の恐れがある。
大きな揺れに思わず怯んでしまったすぐ後にも、命を守るために避難の判断を迫られるのだ。そんな時にも焦らず適切な対応をするには、今備えられることはすべて備えておくこと。
ショック状態の自分を目の当たりにし、その必要性を強く感じた。
◆地震の被害にあってしまったら、どんな行動をとればいいだろう?
1階にある「発災時の行動を知ろう」コーナーでは、発災時にとるべき行動を描いたパネルが展示されている。
場所や状況別にどう行動したらいいか、望月さんが順を追って説明をしてくれた。
まずは、自分の身を守る
「どんな場所にいても、まずは自分の身を守ることが一番大切です。その際に重要なのは、しっかりと頭と首を守ること」
・小さくうずくまり、腰は低く頭を両手で抱え込む
・ダンゴムシをイメージして、小さく体を縮める
望月さんと共に、実際に床にうずくまってみた。
近くに座布団がある場合は座布団で頭を守り、出先の場合は手持ちのリュックなどを使うと良いそうだ。近くにブロック塀がある場合は、崩れる危険があるので直ちに離れよう。
安全の確保をしよう
エレベーターに乗っている場合は、閉じ込められてしまわないようにすべてのボタンを押し、最寄りの階で降りる。そのあとはなるべく階段を使って避難をしたい。
※2009年9月以降、エレベーターには「戸開走行保護装置」及び「地震時管制運転装置」の設置が義務付けられているため、災害時は最寄り階で停止する仕様になっているものが多い。
避難時は車を使わず歩いて避難をすることが望ましい。余裕がある場合は、お年寄りや体が不自由な方の手助けをしよう。
「地震後は津波が発生する恐れがあるため、海や川には近寄らないことが大切です」と、望月さん。
「被災した時、たまたま水域が近い場所にいた場合はどうすればいいですか?」と尋ねると、望月さんはある看板のようなものを見せてくれた。
津波被害の危険性がある地域で地震が発生した際、高いところへ避難が可能な「津波避難ビル」であることを示す標識だ。これは電柱などに設置されていることが多い。
「この標識が設置されているビルやタワー、近くの高台に避難をしてください。さらに日頃から海沿いを通った時などには、避難経路のシミュレーションをしておきたいですね」
揺れが落ち着いたら、次の行動を
自分の身の安全が確保できたら、家族や大切な人の安否確認をしよう。
「避難所に家族がいることを知らず探しに行ったために、地震の二次災害で亡くなってしまった方たちもいたんです」と、話す望月さんの言葉に胸が痛む。
家族の安否が気になるのは誰しもが同じ。被災時に家族や大切な人が無事に避難できているかどうか、その不安を払拭できるのが『災害用伝言ダイヤル171』だ。
これは被災地への通信が集中し、繋がりにくくなった場合に提供される“声の伝言板”。誰でも無料で使うことができる。毎月1日と15日、正月三が日など限られた日に体験利用ができるので、実際に試してみたり、家族全員で使い方を共有しておこう。
「いざという時にスムーズに安否確認ができるように、避難場所や手段、連絡方法など家族で話し合ってみてください」
◆台風などで警報が出るほどの大雨が降ったら?河川災害・土砂災害に備えよう
続いて、2階「河川災害と土砂災害を探ろう」コーナーに案内してもらった。
台風や大雨による水害や土砂災害が、毎年日本のどこかで起きている。局地的で激しい雨の降り方が多くなりつつあることが原因のひとつだという。
「地震と違い、台風や大雨による災害は、情報を取得し、事前に避難することができれば、命をまもることができます」
2018年に起きた西日本大豪雨では、被災地域とハザードマップがほとんど一致したという。
「避難指示や気象警報などの情報をもとに避難をしていれば、助かる可能性がグンと上がります。けれど、西日本大豪雨の際には“今までに災害の経験がなく、今回も大丈夫だと思った”と、避難をしない判断をする人も多くいたのです。その中には、逃げ遅れて被災してしまった人もいました」
◆避難の判断で大切なのは、今いる場所の状況把握
避難所へ避難をしたほうが良いのか、自宅で様子を見たほうが良いのか。
避難の判断において大切なのは、今いる場所の状況把握と警戒レベルを用いた防災情報だ。
『警戒レベル4』までに避難をしよう
災害時に発令される警戒レベルは5段階に分かれている。
警戒レベル1は、防災気象情報に注意をし、災害への心構えをもつこと。
警戒レベル2は、ハザードマップなどで避難行動の確認をすること。
警戒レベル3は、避難に時間がかかるお年寄りや体が不自由な方が避難をすること。土砂災害や急激な水位上昇の恐れがある地域に住んでいる場合も、この段階での避難が望ましい。
警戒レベル4は、対象となる地域住民の方が全員避難をすること。
警戒レベル5は、既に災害が発生しており命の危険がある状態を表すため、警戒レベル4までに避難することが必要だ。万が一、警戒レベル5の段階で避難が難しい場合は、2階以上で斜面や崖から離れた部屋に避難をしよう。
◆実際にハザードマップを見てみよう
2階「ハザードマップを見てみよう」コーナーでは、『重ねるハザードマップ』を自分で操作しながら見ることができる。
『重ねるハザードマップ』とは、国土交通省が運営している、全国の災害リスク情報や防災に役立つ情報を重ねて見ることができるWeb地図サイトだ。
望月さんに教わりながら、実際にいろいろな住所を入力してみた。
洪水、土砂災害、高潮、津波など項目をクリックするごとに、画面が色づいていく。
どこにどんな災害のリスクがあるのかが一目瞭然だ。改めて日常生活の中でも防災について意識することが大切であると実感した。『重ねるハザードマップ』はスマホでも簡単に確認することができるので、いま自分が住んでいる地域を調べてみよう。
最後に望月さんはこう話してくれた
「避難方法に正解はありません。皆さんの生活様式や状況、被害の大きさなどで対応できることも変わってきます。だからこそ、自分の場合はどうかな?家族の場合はどうかな?と考えながら、それに合った準備をし、知識を得ることが重要です。ぜひ、取り組んでみてください」
◆事前に備えておきたいことリスト
[1]緊急時に持ち出す防災バック
2回目のコラム「家の中と外出時、もしもの時に備えよう」でチェック。
[2]避難行動判定フローの確認
事前準備や災害時の対応について確認し、災害時にとるべき避難行動を選択していこう。
印刷し、普段から目につく場所に掲示しておけば、避難時に役立つはずだ。
↓印刷して、使ってみよう!↓
[3]「わたしの避難計画」の記入
いざという時、自分の命を守るために、「わたしの避難計画」を作成しよう。これは、「いつ」「どこに」「どのように」避難するかを確認し、書き記したカードだ。こちらも印刷し、普段から目につく場所に掲示しておけば、避難時に役立つはず。災害の種類ごとに家族で作成・共有するのがポイント。
↓印刷して、使ってみよう!↓
↓記入例↓
家に帰って、さっそくスマホで『重ねるハザードマップ』を使ってみた。
いつ、どこで、どのように起きるかは誰にもわからない「災害」。それは、決して他人事ではない。今、災害が起きた時にどうすればいいのかを学び、いざという時に焦らないための取り組みをしておこう。それは自分の命を守るためでもあり、大切な人の命を守るためでもあるのだ。