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背中を押してくれる人と本のこと/つまみ食い読書探訪 第1弾「weekend」店主 松浦さん

背中を押してくれる人と本のこと/つまみ食い読書探訪 第1弾「weekend」店主 松浦さん

読書好きはもちろん、普段は本を読まなくても、なんとなくそこにあると気になってしまう「本棚」という存在。選ばれた本たちは何も語らないけれど、一つひとつに物語があるはず。静岡のまちでおいしい時間を届けてくれる素敵な人たちは、一体どんな本を読んでいるんだろう。“憧れのあの人”の暮らしに寄り添う本たちを紹介する企画「つまみ食い読書探訪」。第1弾は、「weekend(ウィークエンド)」の店主 松浦さんにお話を伺った。

魅力的な人のそばには本がある

お話をお伺いしたのは、北街道沿いにこの春オープンした惣菜・パン・菓子店「weekend」の店主であり、ご主人と共に自然派ワインビストロ「la varie(ラ・ヴァリエ)」を営む松浦さん。好きな本の主人公とご主人の共通点や、松浦さんとの関係性、お店でパンを提供する松浦さんならではの読書時間をご紹介。

魅力的な人が読む本に惹かれて

—--------どんな本を選ぶのですか?


「興味のあるジャンルはミステリーやSFなどです。そして、読書のスタイルは一気読み派。読んでいると思わず続きが気になっちゃって(笑)。よくふらっと書店に行くのですが、そこに並ぶ本たちの表題だけを見て1冊を選ぶというのがどうしても自分は苦手なんです」


—--------本を選ぶ基準は、何かで紹介されていたり、人からの紹介が多いですか?


「そうですね。基本的に人に紹介してもらった本がほとんどです。魅力的な人が選ぶ本は素敵な本が多いので、すすめてもらった中から、自分の好みに合うものを選ぶことが多いですね。今日紹介する2冊の本も、どちらも親しい人たちから紹介してもらったものなんですよ」

ブログをさかのぼって見つけた背中を押してくれる1冊と、ご主人との関係性

松浦さんがまず紹介してくれたのは、こちらの1冊。

「成瀬は天下を取りに行く」(宮島未奈/新潮社)
滋賀県大津市を舞台に、破天荒な主人公 成瀬がわが道を猪突猛進で切り開く痛快青春小説だ。

「プライベートでずっと仲良くしている前職の先輩が、偶然読んでいたんです。今は彼女は離れた土地で暮らしているんですが、『weekend』がオープンした時にはるばる静岡までやってきてくれて。
その後彼女が自身のブログで『weekend』のカヌレを紹介してくれたんです。編集の仕事をしていたこともあってか、ブログの文章がとても面白くて。
懐かしいなぁとさかのぼって読んでいたら、この本が紹介されていたんです。それで、何だこの本は!と思って、すぐに電子書籍アプリでダウンロードして一気読みしました」


—---------この本のどんな部分に惹かれたのですか?


「主人公・成瀬の突拍子もない言動の数々です。周囲の人がびっくりするようなことを宣言しては、実現させていくところが自分にはない部分というか…。周りにどんなに反対をされても、自分の意思を貫こうとする姿勢は、読んでいて気持ちが良かったです。
“やりたいことを口にして、そのうち1つでも叶えられたら良いんだ”という言葉がよく登場しますが、自分もその言葉に背中を押してもらっています」


—---------松浦さんは成瀬のようなタイプではないのですね。


「もう真逆です(笑)自分は、いつかやればいいよねと先延ばしにしてしまうタイプなんです。『weekend』を始めることになったのも、シェフである主人が『やったらいいじゃん!』と言ってくれたからで。そう思うと主人が成瀬のような人なのかもしれないですね。
主人がどんどん行動に移していくから、私もやるしかない状況になるというか。主人の『やったらいいじゃん!』がなかったら『weekend』はなかったかもしれません」

再会したワインの本は友人から

次に松浦さんが紹介してくれた本は、
「ワイン知らず、マンガ知らず」(エティエンヌ・ダヴォドー著 大西愛子訳 京藤好男監修 サウザンブックス社)。
バンド・デシネ※作家のエティエンヌ・ダヴォドーが、フランス自然派ワインの巨匠 リシャール・ルロワに1年間の密着取材を行った長編ドキュメンタリー。
※フランス語圏で主に親しまれているコミック

「この本も友人からの紹介です。とはいえ紹介される前に、ワインの輸入者の方から、フランスで人気のマンガがクラウドファンディングで日本語訳されるらしいよ、という情報をもらっていたんです。当時は刊行前だったのもあり『そうなんですね〜』くらいにしか思っていなかったんですけれど。しばらくしてから、『Cave LITRON(カーヴ リトロン)』のさゆりちゃんから『この本知ってる!?』と紹介されて、やっぱりなんだか読みたくなってしまって。結構な値段がしたんですけど、今も大切に持っています」


「Cave LITRON」は、静岡市でまちのちいさな酒屋兼カフェとして、自然派ワインやコーヒーを提供する素敵なお店。プロの薦めということもあり内容も充実している。



—---------バンド・デシネはイラストと文章で構成されている点においては、日本の漫画と共通していますが、文章量が多いのが特徴ですよね。



「そうなんです。実は、日本語版は本国版の刊行から10年後にやっと刊行されたのもあって、後日談が追加されているんです。10年前の自然派ワインでは、ワインを瓶に詰める時に酸化防止剤という、味を安定させるための添加物を少し入れてもいいということになっていたそうなのです。ですがルロワのところでは、10年のうちに研究を重ね、無添加で高品質のワインが作れるようになったと書かれていて。ずっと進化をし続けながらより良いものづくりをしている所が、読んでいて素敵だなと思いました。純粋にワインの製法をかなり詳しく書いているので勉強にもなります」


ワイン好きをはじめ、グルメな人が集うビストロ「la varie」と、パンづくりに腕を振るう「weekend」という二足のわらじを履いて活躍する松浦さん。多忙で充実した暮らしの中で見つけた読書時間についてもお伺いした。

パンが発酵していくように、穏やかで深い時間

—------2店舗を行き来するようになり、さらにお忙しくなったのではないでしょうか。どんな時に読書をされているのですか?

「確かに忙しいのですが、パンの仕込みの時間が定休日にはあるのでその時に読んでいるんです。パンづくりには発酵という段階があって、そこでは待つしかやることがないんですよ。だからいつも夕方にできた時間で本を読んでいます。以前はその時間にラジオを聴いたりだとか、いろいろと試したのですが、結局は読書が一番集中できて良い時間を過ごせています」




最後は、パンをつくるからこそ生まれる、豊かな時間の使い方について話してくださった松浦さん。

朗らかでその場がぱっと明るくなる、太陽のような雰囲気を持つ松浦さんの周りには、自然と魅力的な人、そして本との出会いが訪れるのかもしれない。

彼女のパンを食べながら過ごす読書の時間は、きっといつもより特別なものになる。そこには、日々の暮らしに灯りをともす魔法のようなおいしい時間が待っているはず。

「weekend」Instagram

更新日:2023/9/26

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