災害時でも栄養を摂るためには?もしもの時の食に備えるパッククッキングレシピ
災害が起こった時、不安でいっぱいの状況の中、自宅で温かい料理が食べられたら…。電気やガス、水道などのライフラインが断たれた場合でも作れて、栄養も摂れる「パッククッキング」のレシピをご紹介!
監修は、「静岡県栄養士会」鈴木由貴さん
静岡県内の自治体病院に勤務する管理栄養士。勤務先の災害担当となったことをきっかけに、日本栄養士会災害支援チーム(JDA-DAT)リーダー育成研修を受け、JDA-DATリーダーとして活動。県内で毎年開催しているスタッフ育成研修にてパッククッキングの講師を務め、支援経験の伝達や防災知識の普及に取り組んでいる。
なぜ、災害時に「食事」が重要になるの?
「まりなさんこんにちは、静岡県栄養士会の鈴木です。今日はよろしくお願いします」
「鈴木さん、こちらこそよろしくお願いします。これまで防災について学ぶ中で、被災したときの自宅避難の重要性について学びました。もしも自宅避難になったときのために、レトルト食品などの備蓄品をそろえてはいるのですが、避難生活が長期にわたった場合の栄養面が心配です…」
「もしも災害が起こってしまったら、きちんと食べることにまで配慮した生活が、自宅避難の中でできるのか不安ですよね。お気持ちはすごくわかります。ただ、災害時は『食事』がとても重要なポイントになるんですよ」
「まず災害を乗り越えるために、体力をつけなくてはなりません。食料のストックやトイレの回数を気にしたりして、食べるのを我慢するのではなく、食べてエネルギーを補給することが大切です」
「確かに、災害時は食事を後回しにしてしまいそうです。二次災害に備えたり、まわりの救助にあたるためにも食べることは重要ですね。それでは、災害時の食事で、栄養に配慮するためのポイントはあるのでしょうか」
「被災して心が弱ってしまったときこそ、料理をして温かい食事をとることが心の栄養にもなると言われています。また、災害時に届けられる食料支援物資は糖質が中心です。おにぎりやパン、カップ麺などはエネルギーを補うための食料なので、避難生活が長引くと、どうしても栄養が偏ってきてしまいます。災害時の栄養不足を料理することで補えると良いですよね」
「なるほど、災害時もなるべく料理をして、温かい食事がとれるとよいのですね。効果的に栄養を補う方法はあるのでしょうか」
「まずは栄養を補えるような缶詰や乾物、野菜ジュースなどを日常から備えておくようにしましょう。使ったら補充する日常備蓄(ローリングストック)を実践すると良いですよ。また、それらの備蓄品を利用した、ライフラインが絶たれたときでも活用しやすい調理法として『パッククッキング』という方法があります。今日は、自宅避難時にライフラインが断たれていても料理ができるパッククッキングのレシピをいくつか紹介したいと思います」
パッククッキングとは?準備しておくと安心なグッズリスト
パッククッキングとは、耐熱性ポリ袋に食材を入れて袋ごと鍋で湯せんし、加熱調理する方法。災害時の限られた環境下での使用が特に便利で、袋ごと調理するため鍋が汚れず、洗う水を節約できるので、貴重な水やガスを最小限に抑えられる利点が。複数の料理を同時に調理できるので時短になり、非常時だけでなく日常でも役立つ方法である。
パッククッキングのために普段から準備しておきたいものはこちら。
・カセットコンロ
・カセットガス
・高密度ポリエチレン袋(マチ無し)
・大きめの鍋
・鍋に合う大きさの耐熱皿
・はさみ
・タイマー
・トング
・水
鍋底に皿を敷くと、湯煎の際に鍋底の熱でポリ袋が破れるのを防ぐことができる。高密度ポリエチレン袋は、100円ショップなどでも購入できる日本製の高密度ポリエチレン袋で、0.01mm以上の厚さ、耐熱温度は110℃以上のものが望ましい。耐熱温度が100℃のものは湯煎時に熱で破れてしまう可能性があるので、袋を二重にするなどの対策を。
レシピ基礎編:ポリ袋で白米を炊いてみよう!
「白米」のパッククッキングレシピ
材料(1人分)
無洗米…80g(無洗米でなくても可)
水…120ml
①水と米を測り、ポリ袋に入れる
120mlの水と80gの米を測り、高密度ポリエチレン袋に米と水を入れる。米1人分は80gで、100mlの紙コップ1杯弱と同量であることから、紙コップを常備しておくとキッチンスケールで測る必要がなく便利。
②袋を縛り、30分浸水させる
加熱すると膨らむので、水圧を利用してできるだけ空気を抜く。袋の上の方でしっかりと縛り、30分間浸水させる。
③蓋をして弱火で20分間加熱
鍋に6~8割の水を入れ、沸騰したら袋を入れる。袋の縛った部分が鍋の外に出ないように蓋を閉め、吹きこぼれない程度の火力(中火)で20分ほど加熱。
※他にもパッククッキングをしている場合は、一緒に鍋に入れて加熱すると時短に!
④余熱で10分間蒸らして完成!
火を止めて鍋の中で10分間蒸らしたら、すぐにかき混ぜる。
「1袋に入れる量は1~2人分が目安です。袋は熱すると食材からの水分が蒸気となって膨らむので、空気はできるだけ抜きましょう」
レシピ応用編:野菜を使った「シーじゃが」でビタミンを補おう!
「シーじゃが」のパッククッキングレシピ
材料(2人分)
じゃがいも…大1個
玉ねぎ…1/2個
ミックスベジタブル…20g
ツナ缶…1缶(またはツナレトルト水煮1袋)
めんつゆ…小さじ4
①材料を切る
じゃがいもと玉ねぎを食べやすい大きさに切る。まな板は、乳アレルギーがなければ牛乳パックを潰して開いたものを利用すると使い捨てができて便利。じゃがいもの皮は湯煎する鍋の水で洗うと節水に!
②材料を2袋に分けて入れる
まんべんなく火を通すため、全ての材料をポリ袋に2等分して入れ、できるだけ空気を抜き、袋の上の方を縛る。
③20分間加熱する
沸騰した鍋の中に入れ、20分間ほど加熱して完成!
※他にもパッククッキングをしている場合は、一緒に鍋に入れて加熱すると時短に!
「じゃがいもから食物繊維が摂れるので、お通じの改善が期待できます。ミックスベジタブルは入れなくてもOK。しらたきのストックがあれば、袋の上から適度な長さに切ったものを加えると食物繊維アップに。ツナは水煮を使用し、じゃがいもをフォークで潰すと離乳食にもなりますよ」
レシピ応用編:心を満たす、ホットケーキミックスを使ったデザート(2品)
「ホットケーキミックスデザート」のパッククッキングレシピ
材料(各3人分)
ホットケーキミックス…150g
魚肉ソーセージ…1本(70g)
板チョコ…1枚(またはチョコベビー…60g)
ミルクココア…大さじ1
牛乳…100cc
卵…Mサイズ1個
①ポリ袋の中で材料を混ぜ合わせる
卵・牛乳・ホットケーキミックスをポリ袋に入れたら振って混ぜ合わせ、粉っぽさがなくなるまで袋の上から手で揉む。
②生地を分け、味をつける
混ざった生地を2等分し、1つに魚肉ソーセージ、もう1つにチョコレートとミルクココアを入れて混ぜ、できるだけ空気を抜いて袋の上の方を縛る。
③20分間加熱する
沸騰した鍋の中に入れ、20分間ほど加熱する。
※他にもパッククッキングをしている場合は、一緒に鍋に入れて加熱すると時短に!
④すぐに冷ます
加熱後はすぐ袋を開け、冷まして完成!
「半分に切ってわりばしを刺せばホットドック風にもなりますよ。材料に卵がない場合や、卵アレルギーがある場合は水でも代用できます。ポリ袋は、マチ付きだと加熱にムラができてしまうため、マチなしのものを推奨しています」
パッククッキングを日常生活にも取り入れてみよう!
「3つの料理を食べてみて、どうでしたか?」
「どれも簡単な工程で作ったとは思えないくらい、おいしくて驚きました!災害時にこんな料理が食べられたら、きっと少し安心するだろうな…。パッククッキングを実際にやってみて、普段の生活にも取り入れられそうだと思いましたし、おうちでもこのレシピを作ってみたいと思います」
災害時のパッククッキングは、温かい料理で心を保つのと同時に、水やガスなどの貴重な資源を効率的に使える重要な調理法。日ごろからパッククッキングに慣れておくことで、災害時にもスムーズに調理ができ、自分や家族の安全と健康を守ることができるはず。非常時にも役立つこの調理法を、日常生活にも取り入れてみよう。
ほかにも、防災をもっと身近にするためのコラムを発信中!
静岡県出身のフリーランスのライター&エディター。よく食べよく笑うことが日々の糧。「案ずるより産むが易し」の精神で前のめりに活動中。