
いざというときの車中泊。災害時の判断基準や基礎知識、備えについて考えよう
地震や台風などの自然災害に備える中で、注目されているのが「車中泊」という避難の選択肢。自宅が倒壊してしまったとき、あるいは小さな子どもやペットがいるとき……。車があなたと家族の安心を守る“もう一つの避難所”になるかもしれない。 今回は、どんなときに車中泊を選択するべきなのか、またどんな場所を選ぶべきか。そして快適に過ごすためのポイント、準備しておくべき防災アイテムなどを紹介する。
監修は、防災士の向坂智子(むこうざか ともこ)さん

静岡県焼津市在住。防災士であり、管理栄養士、調理師。元々栄養士として、食品会社で品質管理の仕事に就いていたが、阪神淡路大震災の際に同僚が被災。更地になった神戸の街を目にし、静岡でも災害に備えることの大切さを痛感する。防災士といえば男性が多いイメージだが、心臓マッサージやトイレ問題などもあるため、女性の防災士からも伝えた方がいいと感じ、資格を取得。防災食のつくり方やママ向けの防災講座などを中心に活動している。
災害時における避難方法の一つ、車中泊。どんなときに選択すればいい?


「向坂さん、今日はよろしくお願いします。」

「鈴木さんこんにちは、防災士の向坂です。今日は防災企画にぴったりのオレンジ色の服がいいですね!屋内外で目につきやすいオレンジ色の衣類は、遭難した際に発見されやすい色なんですよ!」

「そうなんですね!この色を選んでよかったです(笑)。さて、今回のテーマは車中泊。昨今のキャンプブームから注目され始めましたが、最近は被災した際にも車中泊を選択する人は多いと聞きます。なぜでしょうか」

「被災時、自宅に留まることができればそれがベストですが、もし倒壊してしまった場合、通常は避難所に行くことになります。しかし避難所での暮らしは、大人数で雑魚寝することも多く、プライバシーを確保するのが難しいんです。
また、これは東日本大震災の避難所での事例なのですが、小さな子どもがいるご家族だと、子どもたちもストレスが溜まりますから、発散したくなって遊んでしまいますよね。そうすると、周りの方に迷惑をかけないようにと、お母さんが怒ってしまう。しかし、耳の聞こえにくい方にとっては何を言っているのかわからず、「うるさい!」と怒ってしまうことがある。そうなると、そのご家族は避難所にいづらくなってしまうんです」

「慣れない環境における他人との共同生活というのは、難しいのですね」


「そうなんです。またペットは避難所内に入れないので、屋外で繋がれることになります。しかしペットも大切な家族ですから、一緒にいられないのであればと、車中泊を選択する方が多いんですよ」
車中泊の基礎知識その①:場所選び


「では、実際に車中泊をすることになった場合、どんなポイントがありますか」

「まず重要なのは場所選びです。大地震の際は、辺り一面が瓦礫だらけになるので、瓦礫を避けて平らな空き地や駐車場など、安全な場所を選ぶことが大切です。備蓄品を取りに行けるように、できるだけ自宅近くでと考える方が多いですが、大事なのは水害の心配がない場所であること。地下水が溢れると地盤が割れて地盤沈下することがあり、車を移動するときに発進できなくなってしまいます。ぬかるんでいる場所は避けましょう」

「災害時の水害といえば津波を思い浮かべていましたが、それだけではないんですね」

「そうなんですよ。そのためには、住んでいる地域の被害想定がどのようになっているのか 、水が来ないエリアはどの辺りかというのを、日頃から調べておくといいですよ。台風のときなど、どの辺りに水の被害があったかを調べ、市町村から配布されているハザードマップで安全なエリアをチェックしておいてください。イメージしておけば、速やかに移動することができますから」

「なるほど、日頃から情報を集めておくことが大事ですね」
車中泊の基礎知識その②:車内で快適に過ごす方法


「車内で快適に過ごすためには、どんな工夫をするといいのでしょうか」

「窓にシェードやカーテンをつけて、外からの視線をシャットダウンするといいですよ。車はフルフラットになるタイプがいいですが、そうでない場合は座席を倒してできるだけ広いスペースを確保して、アウトドア用のマットを敷いたり、銀マットなどで凸凹をフラットにしたりと、調整することで快適に寝られます」


「ホントだ!マットが敷いてあると柔らかすぎず硬すぎなくていい感じ。さらに凸凹がないと、かなり快適に寝られますね」

「また、多くの人が心配するのが、エコノミークラス症候群。予防策としては、締め付けのない、ゆったりとした服を身につけること。そして楽な体勢をとり、こまめな水分補給を心がけましょう。トイレに行きたくなるからと、水分補給を怠るのは危険です。また、起きているときは軽い運動を取り入れると良いでしょう」

「寝るときはどんな姿勢がいいのでしょうか」


「席に座って寝るときは、腰の下に丸めたバスタオルなどを入れて、隙間をなくすと体が楽になります。また、足を上げることは血栓予防になりますから、足元に置けるサイズの箱を用意しておくのもおすすめです。さらに、起きる時は急に起き上がらず、ゆっくり起き上がること。これも血栓予防になるんですよ」


「命に関わる重要な情報をありがとうございます。そういえば車内で過ごす時間が多いと、熱中症にかかる危険性も高まりそうですね。対策はありますか」

「5月から11月くらいまでの時期は、熱中症の危険性が高まるため、温度管理が必要です。クーラーをずっとつけておくわけにはいかないので、サンシェードで日差しを遮り、換気をして車内の温度を下げましょう。うちわで扇いで風を送り、こまめに水分補給をしてください。水は小さいボトルと大きいボトルの両方を用意して、小さいボトルに詰め替えながら飲むと衛生的にも安心です」
車中泊の基礎知識その③:衛生対策


「なるほど。暑さ対策も大事ですね。他に衛生面で配慮することはありますか」

「問題になりがちなのが、ゴミの処理。食べ残しなどの生活ゴミと排泄物の2種類があるので、分けておくこと。排泄物は防臭袋などに入れ、蓋付きゴミ箱に入れておくといいですよ。また地域ごと、避難所のグラウンドなどに、どこに何を捨てる場所にするのかルールを決め、それを守って捨てるようにしてください。適当な空き地などに捨てるのはやめましょう。また、全てにおいて言えることですが、ゴミ処理についても、自治体や避難所任せにしないで、自分たちで責任を持って、行動できるといいですね」

「自分たちの出したゴミですもんね。責任を持って処理したいと思います」

「また、お風呂に入れず、匂いが気になることがあるので、消臭スプレーも役に立ちますよ。それから服が汚れても着替えられないこともあるので、大判のスカーフなどを一枚入れておくと汚れた部分をサッと隠せて便利です」

「すごくリアルなアドバイスですね。さっそく備えておこうと思います」


「それから、寝るときに家族全員のスペースを確保するのが難しく、荷物を車外に出さざるを得ないこともあります。しかしそのまま外に出すと、地下水が浸水して流されてしまうことも。荷物はコンテナなどに入れておき、車の牽引フックと荷物用ロープなどで繋いでおくと安心ですよ」
小さな子どもがいる家族におすすめ。枕にもなる手作り防災ずきん


「小さなお子さんがいる方におすすめなのが、手作り防災ずきん。バスタオルに、フェイスタオルを2枚、さらにその上に小さなハンカチを2枚、ポケットとして縫い付けてあります。そこにお母さんのスカートやハンカチ、ビニール袋などが入っています。紐を縫い付ければ防災ずきんとして被れますし、タオルはしつけ糸で縫ってあるので、必要なときに剥ぎ取って、タオルとして使うことができます。また、車中泊では枕にもなるんですよ!」


「すごい!無駄がなくて、多機能ですね」


「お母さんのスカートを入れたのは、お母さんの衣類があると子どもが安心するから。スカートなら頭からかぶって授乳ケープや着替えのときにも役立ちます。手作りすれば安いですし、子どもが好きなキャラクターのタオルを使えば、安心材料にもなります」

「捨てようか迷っていた古いバスタオルがあるのですが、こうやって再利用するのもいいですね」
車中泊に備えておきたい防災アイテム


「では、車中泊にはどんな備えをしておけばいいのでしょうか。車の中に常時積んでおくべきものはありますか」

「車に備蓄しておくのがベストですが、邪魔になるので、家の中の玄関など、すぐに取り出せる場所に置いておくのがおすすめです。家族にもわかるようにしておくといいですね。車には、被災した場合に備えてちょっとした食料や飴、タオル、救急セットなどをまとめて持っておくといいですよ。また、車中泊を想定した防災グッズセットも市販されています。防寒グッズや携帯トイレなど、災害時に車内で過ごす際に必要なアイテムがひとまとめになっているので、備えておくと心強いアイテムです。うちでは、いざというときにサッと持ち出せるように、玄関に置いています」


最後に、向坂さんからのメッセージ

「車中泊は、初めての人がやるのは、なかなか難しいものです。窓にカーテンをつけても、外に人がいる気がして寝られないことも多いといいます。いざ災害が起きたときにできないと困るので、日頃からキャンプなどで練習しておくといいですね。地震は予知が難しいから、日頃から備えておくことが大切です。
また、エコノミー症候群にならないために、ドライブなどで長時間同じ姿勢を続けたときは、屈伸したり、手足を伸ばしたりという癖づけをしておきましょう。ラジオ体操もいいですよ。恥ずかしいと思ってしまいますが、普段から練習しておかないと、いざというときにやるのを忘れてしまうものです。
そして、自分たちだけではなく、『周りの人も助けてあげよう』という意識を持てるといいですね。知らない人だとためらうことがありますが、一歩踏み出して『大丈夫ですか?』と手を差し伸べること。お互いに協力し合う姿勢が大切です。次の世代を担う、子どもたちも背中を見ていますよ」

「おっしゃる通りだと思います。人を助けられる機会があれば、勇気を持って手を差し伸べたいと思います。向坂さん、本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!」

※本コラムに掲載されている防災グッズは向坂さんの私物であり、特定の商品を推奨するものではありません。