【第23回】トレインスポッティング(1996年)
“クセが強い”ミニシアターブームの象徴的作品
筆者:こしあん
映画・海外ドラマ、読書、お笑い、カメが大好き。特技はイントロクイズ(80年・90年代ソング限定)。
怖がりのくせにホラーとミステリーが大好きで、生まれ変わったらFBI捜査官になりたい。
休日にどれだけ家にこもっていてもまったく苦にならない超インドア派。
ゆるい解説と小学校から上達していないイラスト(ときどき)で、好きな映画を紹介していきます。
トレインスポッティング(1996年)
4月8日に公開された『T2 トレインスポッティング』。
映画館でこの映画の予告編を観たとき、「うおぉぉぉぉぉ、続編キターーーーー!!!」とテンションが上がり、一気に心は20年前にタイムスリップ。
20年前に観た『トレインスポッティング』だけど……アレ? とにかくオシャレでポップで、ユアン・マクレガーがひたすら麻薬におぼれて、トイレの便器に頭を突っ込んだりしてたけど、それ以外の内容をあんまり覚えてないぞ……汗
なので、続編にそなえて20年ぶりに鑑賞。
ユアン・マクレガーは『スター・ウォーズ』でのオビ=ワン・ケノービ役しか知らない! という人も、弾けるような若き日のユアンを堪能あれ!
『トレインスポッティング』が公開された1996年は、ちょうどミニシアターブーム、サブカルチャーブームの時代。『トレインスポッティング』はミニシアターブームを象徴する作品だったのです。
とりあえず「『トレインスポッティング』サイコー!」なんて言っておけばOK! それだけで、もうオシャレ。
とくに親しくなかった人や初対面の相手でも、「『トレインスポッティング』観た」とわかるだけで、「おぬし、やるな」と(なぜか上から目線で)踏み絵のように判断していたものです。
でも、そういう感覚がすでにオシャレじゃないんですけどね……笑
本物のオシャレさんは、そんなこといちいち気にしないので。
スキニージーンズ(なんて言葉は当時の日本では使われていなかったけれど)を履き、“それはさすがにやりすぎ!”というくらいピタピタしたTシャツを着て、ポップな音楽にのってひたすら走る、オシャレ坊主頭のユアン・マクレガー。
ただ町を走っているだけなのに、なんかオシャレ。
ユアン・マクレガーが演じるのは、不況にあえぐスコットランドで、つまらない平凡な生き方よりも、麻薬常習者であることを選び、仲間たちと怠惰な生活を送る若者・レントン。
仲間のスパッドと共に万引きで捕まり、前科の多かったスパッドは刑務所に入ることになるが、レントンは執行猶予になる。それから本気で麻薬をやめる決心をし、ロンドンに出て就職するが、仲間たちに邪魔をされて再び故郷に戻ることに……。
どうしようもない仲間たちのキャラクターも秀逸。
他人からすると理解しがたいヘンなこだわりとか、キレやすい性格とか、実際には関わりたくない人たちばかりだけど、映画で観ている分には実害がないので面白い。
麻薬、窃盗、女遊び、お酒、ケンカ……およそ褒められた内容ではないけれど、ポップな音楽とスタイリッシュな映像で、オシャレな青春映画に仕上がっちゃうんだから不思議。
ハリウッドとはまた違う、イギリスっぽいオシャレさ。何がどう違うのかと、うまく説明できない自分がふがいない……。
登場人物たちのモノクロ写真に、オレンジ色の「Trainspotting」の文字が書かれたポスターがまたオシャレで!
さっきから、「オシャレ、オシャレ」言い過ぎて、逆にものすごくダサくなってますけど、このまま突き進みます。
まぁ、クセの強い映画なので、好き嫌いは別れるかもしれません。
変わるもの、変わらないもの
長い時を経て、年齢も境遇も大きく変わってしまうと、好きだったものでも苦手になってしまうことってありますよね。
なので、20年ぶりに『トレインスポッティング』を観るのがちょっと不安でした。
「この映画を観て人生が変わった」とか、そういう直接的なものがあるわけではまったくないけれど、自分のなかの何かが刺激されて、自分はこういうのが好きなんだなぁということを確信したし、またそれを隠さずに表に出そうと思うようになったし、自分でも気づかないところで小さな影響は受けているはず。
詳しいストーリーは忘れていたけれど、観ているうちに、そうそうこうだったとどんどん思い出してきて、20年経ってまた観られたことが嬉しくて、その感覚がとても気持ち良かったんです。
それとは逆に、好きだったのに苦手になってしまったのが、ドリカム。ちょっと前に【ゆとり最前線サツキ】さんが書いていましたけど、近頃話題の“ドリカムアレルギー”。
私は高校生から22,3歳くらいまではドリカムが大好きだったけれど、徐々に抵抗を感じるようになってしまったんですよね。
なぜなのだろうかと、ここ数年ずっと考えていたんですが、ようやく、ある結論に達しました。
それは「副作用」と「置き去り」です。
歌が持つエネルギーやメッセージ性が強いから、そのぶん副作用も大きいのかなぁと。信じていたものに裏切られた(置き去りにされた)ような感覚。理想的すぎる歌の世界観と、現実社会のツラさとのズレが激しくなり、これ以上もう頑張れないのに、そんなキラキラした歌ばかりで、私を追い詰めないで……みたいな。
私がよく聴いていた頃は、悲しんでいる人に寄り添う歌詞も多かったけれど、だんだんポジティブで明るい歌ばかりが目立ってきたような気がします。
あくまでも、私の感覚ですけど。
マツコ・デラックスが言っていた「ドリカムを好きって人は幸せの象徴」という言葉に、本当にそう、それ! って拍手しそうになりました。
【今日のまとめ】
で、『トレインスポッティング』に話を戻すと、「いつまでも大人になれないダメな人たち」を描いているわけで。
でも、やっぱりこのままじゃダメだ、何とかしなきゃと、ダメダメな人間なりにもがいているわけで。
そこに自分を重ねて、共感しちゃうんだろうなって。
『トレインスポッティング』のキャッチコピーは「未来を選べ」。
あれから20年が経ち、SMAPの「夜空ノムコウ」で言うところの“あの頃の未来に僕らは立っている”のです。
思い通りにいかないことばかりで、つらいことも、悲しいことも、悔しいこともたくさんあったけれど、思いもよらなかった素敵な未来を手に入れたかなぁと思っています。
そしてその未来は自分で“選んだ”ので、誰のせいにもしないし、誰にも口出しはさせない、と。
一度も負けを味わったことのない人生に、深みなんて出ないのだ!
そんなふうに『トレインスポッティング』を観ながら、この20年をしみじみ振り返ったのでした。
私は、『トレインスポッティング』に出てきた若者たちとほぼ同世代。
『T2 トレインスポッティング』ですっかり“おっさん”になった彼らをぜひ観たい! と、GWに行く気マンマンだったのですが……近所の映画館ではもう上映が終わっていたのです……涙
しょうがない。
彼らと同じく“おばさん”になった自分と向き合いながら、レンタルされるまでおとなしく待つことにします。
もう一回『トレインスポッティング』を観て、続編への期待を「ビッグ・ベン」くらいに高めておきたいと思います。
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■トレインスポッティング(1996年)
監督:ダニー・ボイル
出演:ユアン・マクレガー、ロバート・カーライル、ジョニー・リー・ミラー
隔週水曜更新。次回の更新は6/14(水)です。
WOMOシネマ伝道師こしあんの『ぐるぐるシネマ迷宮』 筆者だけの思い出調味料満載の懐かし作品から、あまり共感を得られないようなディープな作品まで、密かな魅力いっぱいのシネマ迷宮へようこそ。出口はたくさんあります。