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コラム

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静岡の食の魅力を発信する「野尻崇生さん」

“みんなが主役”をコンセプトに、静岡県産食材の魅力を発信する「しずおかさんち」。その仕掛け人の素顔とは?

「しずおかさんち」とは、静岡県内の生産者・加工業者・飲食店が結集し、静岡県産食材の情報発信や商品開発を行う、食のプロフェッショナル集団。その中心となっているのは、天神屋で商品開発室長を務める野尻崇生さんだ。活動のきっかけや今後の夢などについて、話を聞いた。(取材日:2018年10月2日)

生産現場の経験が、商品開発のアイディアとスピードを支える

お弁当やお総菜の販売において、通常では表示されることがあまりない、原材料の生産者名。今、“みんなが主役”をモットーに、県内の生産者・加工業者・飲食店が集まり、県産のこだわりある素晴らしい食材をPRする活動が始まっている。それが「しずおかさんち」だ。活動の中心となっているのは、野尻崇生さん。おむすびやお弁当でおなじみの天神屋で、商品開発の仕事を行っている。


「「しずおかさんち」のきっかけは、2017年の年末に製造したおせち。当時、商品開発担当として、おせちの存続も含め、どうしようか悩んでいた時期でもありました。県内の素晴らしい食材や生産者のみなさんに焦点をあてた新しいおせちは、結果的に、天神屋のおせちが変わるきっかけにもなりました。」


2010年から天神屋の商品開発部門で働く野尻さんは、静岡市出身。同社のおむすびやおはぎは、子どもの頃よく食べていた記憶があるという。


「愛知県の大学に進学して、卒業後は地元の企業で働きたいと思っていました。食品の商品開発に興味があり、それで天神屋に就職しました。入社して2年は、ひたすらご飯を炊く現場。水を吸ったお米は重いし、炊飯時に熱いご飯が腕に飛んできて火傷するしで、もう辞めようと何度も思いましたよ(笑)。」

おせちに入れる料理のイメージラフを手描きする野尻さん。言葉をイメージにすることで、メンバーでの共有もスムーズになるそう。「絵を描くのは好き。子どもの頃、苦手な算数のテスト用紙の裏で鍛えました(笑)。」


その後、おはぎを中心としたお菓子の製造工場に異動。商品開発をする機会も与えられ、当時考案した豆大福は、今も店頭に並ぶ。

「ここは利益を出せる部門だったので、思いついたものはなんでも試していました。まずはやってみようという行動力はこの時に身についたのかもしれません。それと、職場は女性しかいなかったんですね。人との接し方も、ここでかなり鍛えられましたね。」

その後、浜松の工場長や、新たな生産ラインの立ち上げに携わり、もう辞めたいと思うこともなくなったそう。仕事におもしろさを見い出せた頃、念願の商品開発部門に配属された。

「商品開発は社長直轄の部門だったので、仕事のスピード感が違いましたね。私も生産現場を渡り歩いてきたので、どんな商品がお客様に喜んでもらえるかの感覚がつかめていた。これは強みになりました。商品は美味しいのは当たり前。その上で、価格帯とボリュームのバランスで売れるかどうかの予測も立てられるようになりました。」

生産者のもとを訪れ、実際に食材を手に取りながら、直接会話をする。電話1本で仕入れられる食材もある中、一軒一軒生産者のもとを訪れるのは、食に込めた想いを共有したいという野尻さんのこだわり。こうした信頼関係を築き、特別に仕入れられている食材も多いという。


天神屋では、一時期おむすびやお弁当の価格を抑えるために、米の質を落としたことがあった。その味は、社員である野尻さんでさえも食べたくないと思う味だったそうだ。3年前に取締役となった時、野尻さんは、このお米の見直しに着手した。

「冷めても美味しく食べられる、銘柄にこだわったお米に変えました。入社した頃は、毎日、なんでこんなにたくさん作るんだろう、と思っていましたが、それだけ、静岡の人たちが天神屋を利用してくれているということなんですよね。安心・安全・美味しいだけでなく、+アルファがなければ、お客様は離れていってしまうと実感しました。」

焼津の岩崎蒟蒻店にて。訪問する生産者の元では、工場にもおじゃまし、そこで働く人たちとも会話を交わす

「いつもと違うおせちを作ろう」から始まった、食のネットワーク

そんな野尻さんでも、「マンネリだった」というのが、おせち。毎年同じ食材、材料で作るおせちは、最盛期の生産量には及ばないものの、それでも1000個近くは販売する年末の主力商品だ。

「いつものように、食材の発注をしたんです。そしたら、地元の生産者がまじめに作っている食材を使ってみないかと提案を受けまして。そして考案したのが、生産者・加工業者が情熱をもって作った県産食材を贅沢に使ったおせち、「しずおかおせち」です。私は、常々、「食はエンターテインメント」と考えていて、食べる人を楽しませてこそだと思っているんです。地元の食材を使って、地元の弁当屋が作る特別な日の料理。これは絶対に実現したいと思いました。」

藤枝の玉取杉山農園にて。肉厚のジューシーな椎茸は「しずおかおせち」の中でも、オリーブオイルで焼くシンプルな調理法で提供

その年に就任した新社長へのプレゼンでは、企画書を持つ手が震えていたという野尻さん。それだけ、会社としても新たな挑戦だった。

「でも、社長は二つ返事でOKを出してくれました。手が震えていたのは、武者震い、ということにしています(笑)。」

伊勢海老よりも甘みがあり、希少な駿河湾産の手長えび。高級料亭へと卸され、県内ではほとんど流通しない海老芋。富士山の清冽な湧水で育てられる鱒…。いわゆる高級食材として東京や京都に出荷され、生産数も少ないために新規の取引が難しい食材も多い。野尻さんは、そうした生産者一軒一軒に直接足を運んだ。

「天神屋のおせち、ではなく、“静岡のおせち”を作りたい、その想いをとにかく伝えたくて。だからこそ、実際に生産者さんに直接お会いして、その食材にどんな想いが込められているのか、どんなストーリーが背景にあるのかを自分で直接聞きたかったんです。」

海老芋の生産農家、磐田のファーム新貝さんと。クリーミーで濃厚な味わいの海老芋は、料亭に卸される高級食材

商品化にあたっては、生産者・加工業者の名前すべてを表記することにした。野尻さんが相手の目を見て発した「名前を傷つけることはしません。」という真摯な言葉に、多くの人の心が動かされプロジェクトに参加。中には、「野尻さんのためなら、商品がなくても納品する。」とまで言ってくれる生産者もいるそうだ。こうして2017年秋、地産地消の「しずおかおせち」が誕生し、2018年5月、これらの人々が集まるネットワークに「しずおかさんち」と名付け、静岡の食を広める様々な活動を開始した。

「静岡では、自分の家のことを、“自分ち”って言うじゃないですか。“しずおかさんち”も、産地と家をかけて名付けました。」

牧之原の丸新柴本製茶さんと。静岡茶を肥料にして育った「和ぷりか」は濃い味が特徴

夢は、オール静岡の「静岡おでん」でのギネス登録

「やると決めたら、行動が早いんですよ。」と語るのは、野尻さんと一緒に生産者の元を訪れている、食品会社『信光』の宮嶋秀明営業部長。「野尻さんは、静岡の美味しいものをみんなに食べてほしい、という思いが強いんです。これは、天神屋のDNAでもあるんですが。でも、自分の会社の利益だけを考えて仕事をしているのではなく、まさに“みんなが主役”を掲げて、そのコンセプトが「しずおかさんち」のネットワークに参加する人たちに響いているんです。」と言う。今後はおせち以外にも、お弁当、お総菜が順次商品化されていく予定だ。

「生産者同士で開発、販売している商品もあるので、天神屋が製造したものでなくても、「しずおかさんち」としてPR、販売のお手伝いもしていきたいですね。」

そんな野尻さんの夢は、ギネスに挑戦すること。

「大学生の頃、帰省しておでんを食べると、“静岡に帰ってきたなぁ”と実感できる、そんなソウルフードでした。静岡おでんでギネス認定を受けたいんですよ。材料すべてを静岡産で作る。そうして静岡を盛り上げたいですね。」

真っ黒な煮汁が特徴のご当地グルメ「しぞ~かおでん」は天神屋の人気商品

商品開発は自社の枠を超え、現在は県立大学の学生とコラボして、ジビエ料理の開発も手がけている。野尻さんにとって、商品開発とは、なんだろう。

「今は、人生そのもの、です。やはり根本にあるのが、“食はエンターテインメント”ということ。これからも食べることを楽しんでもらえるような、そんな商品を生み出していきたいです。」

【野尻崇生さん】

静岡市出身。大学卒業後、株式会社天神屋に入社。31歳で商品開発本部に配属される。2015年、36歳の若さで取締役に就任。2017年、静岡産の食材を贅沢に使った「しずおかおせち」を開発、販売。2018年5月、生産者、加工業者、飲食店とともに「しずおかさんち」のネットワークで活動を開始。同年10月には「しずおかさんち地産地消フルコース」を提供する、初のイベントを開催。2年目の「しずおかおせち」も好評受付中。


2018/10/18

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