【諸国みそ 鈴木商店】全国各地の味噌を味くらべ
まちの案内人にお気に入りのお店やスポットを紹介してもらう、「わたしの散歩みち」。今まで知らなかった楽しみ方やディープな情報を見つけて、このまちの「好き」を再発見する散歩へ出かけよう。研屋町周辺の案内人は『chubby×eight』の尾﨑朝子さん。今回は、尾﨑さんのお気に入りスポットだという『諸国みそ 鈴木商店』を深掘りしてみた。
【案内人】尾﨑朝子 さん
研屋町周辺の案内人は、古着屋『chubby×eight』の店主・尾﨑朝子さん。ていねいに集められた一着一着は触るだけで心地よい気持ちにさせてくれる。尾﨑さんならではの独特な嗅覚を駆使し、お気に入り店を紹介してくれた。
味わい深い味噌が勢ぞろい
茶町通りと金座町の交差点からすぐのところに、紺色の大きなのれんがひときわ目を引く店を発見した。『諸国みそ 鈴木商店』だ。現在は3代目の鈴木順二さんが100年以上続く店を切り盛りしている。全国から味噌を仕入れているそうで、店内に入ると味噌のよい香りがふわりと鼻をくすぐる。ひと抱えはあるだろう桶のなかには、淡い色から真っ黒なものまで27〜8種類の味噌が並んでいる。1年を通して50種類ほどの味噌を扱っているそうだ。
日本人にとって味噌の歴史は長い。起源は中国の発酵食品「醤(ひしお)」にある。約12〜300年前、日本へ運ばれてきたときに日本の風土にあった味噌へと工夫され、次第に一般家庭に馴染んでいった。現在も産地によって米味噌や麦味噌、豆味噌と好まれるものは違っていて、同じ材料を使っていても色や味、香りと、蔵によってまったく違った個性を見せる。
「米味噌の基本的な材料は、大豆・米麹・塩です。たったこれだけの材料で、甘口から辛口までさまざまな味わいのものがあります。その土地の歴史や気候によって仕込み方が違っていたり、同じ土地のものでも蔵付きの菌によって蔵ごとに味が変わったりと、どれ一つとしてまったく同じ味噌はありません。だから味噌は面白いんです。創業してから600年以上の味噌蔵さんとのお付き合いもあります。うちなんてまだまだですね(笑)」
合わせるほうがより美味になる
『諸国みそ 鈴木商店』へ来るお客さんは一般の人だけではない。全国各地の老舗の板前さんやホテルの料理人たちからも信頼を集めている。その理由は「合わせ味噌」にある。
味噌というのは一つのものだけでももちろんおいしいが、色々な産地の味噌を組み合わせることによってより奥深い味へと変化する。春はタケノコ料理が登場し、夏はみずみずしい夏野菜に合うものを、秋はキノコが出てきて、冬は根菜類がどっさり……と、日本の食材は四季を通しておいしく移り変わる。それに合わせて一番良い「合わせ味噌」を料理人たちと相談して提供している。相談があった一つ一つの配合すべてを記録しているので、メニューの数は何万種類にも及ぶそうだ。それだけ幾通りもの味を生み出すことができるのも、味噌の大きな魅力である。
馴染みのお客さんはタッパーを持参する。「この前のおいしかったから、同じ配合で200gずつ」とお願いされると、鈴木さんは手慣れた様子で味噌を詰めてグラムを量る。初めて買いに来られたお客さんがいるときは、「普段使っている味噌はどんな色? 味は甘めかな、しょっぱめかな?」とお客さんの普段の舌に寄り添う。
「味というのはそれぞれの好みが大きいのでお客さんとは色々なお話をさせてもらいます。味噌を組み合わせて、"あ! これ自分の味だ!"というのをお客さん自身で見つけてもらえた時はうれしいですね」。多くの味を楽しめるのは、量り売りだからこそ。自分に合った味を求めて、さまざまなものを試したくなる。
日本人の心の根付く文化の大切さ
私たち日本人にとって欠かせない味噌だが、年に1〜2軒の味噌蔵が畳んでいるそうだ。長年培われた麹菌は一度散ってしまうと同じ味は出てこない。そこに少しばかりの寂しさは感じるが、鈴木さんは「昔ながらを守る」だけがいいものだとは考えていない。
「食べるものというのは時代に合わせて変化してきました。味噌も同じで、元々は醤であったものがもろみとなり、味噌と醤油に別れていって今の形があります。お刺身も酢味噌で食べられていたけれど、今は醤油が主流となっています。人間の味覚は変わっていくからこそ、その時代に合わせて進化していくのはいいことだと思います」
一方で、味噌というのは日々の食卓に欠かせないが、原材料が何でできているか知らない人も増えてきているという。「昔ながらを知る」というのも、同時にとても大事なことである。
「私たち日本人というのは文化があります。西洋のものがたくさん入ってきていますが、普段食べているもの、感じているもの、考えていることはすごく地味な文化の上に根付いています。味噌などの日本固有の伝統調味料だけではなく、ひな祭りや端午の節句などの伝統文化も同様です。文化の存在を忘れると、私たちは根無し草になってしまう。だからこそ、日本人であるということを大事にしたいですね」
味噌が売れ残ることがあっても「なんとかこの味噌を生かしてあげたい」と、お漬物にしたりタレを作ったりと試行錯誤するという鈴木さん。組み合わせ次第で「おいしい」が出来上がるのは、味噌をおいて他にはないかもしれない。
「どんなものでも元は命あるものです。そしてその材料を使って想いを込めた人が必死で作ってくれている。粗末になんてできません。想いのこもったものを大事に扱うのは、日本人の心だと思います」
案内人からのおすすめポイント
老舗のお味噌屋さんで、よく買いに行きます。タッパーを持参していつも2〜3種類ほど入れてもらいます。他愛もない日常の会話がとても楽しくて。なにより味噌のいい匂いが心地いいですね。
撮影:森島 吉直/モデル:鈴木 茉吏奈/衣装提供:chubby×eight
フリーランスの編集・ライターとして雑誌や広告に携わる。次世代につなげたい伝統・文化や、大切に育まれた人柄・物事を、本質から伝えたいと日々精進中。
わたしの散歩みち まちの案内人が紹介するあのお店のこと、あの店主のこと。そして、このまちの「好き」を再発見する散歩へ出かけよう。