アウトドアと防災の親和性。話をしたくなるギアショップへ/osoto雑貨
さまざまなキーワードでWOMO読者がおすすめするスポットを聞き込み調査&取材を実施。今回のキーワードは「アウトドアギアショップ」。焼津市にある『osoto雑貨』へ取材に訪れ、店主の望月さんにお話をうかがった。
焼津市の浜通りにあるアウトドアギアショップ『osoto雑貨』。中に見えるたくさんのギアたちに誘われて、青い外観が特徴的なその建物に足を踏み入れると、店主の望月さんが「いらっしゃいませ!」と明るく迎えてくれた。
『osoto雑貨』は、“炎と灯り”をテーマに、焚き火台やオイルランプ、LEDランプをはじめとしたアウトドアギアを取りそろえている。そしてもう一つのテーマは、“防災”だ。
アウトドアギアショップとして「防災」をうたっているお店は少ないが、『osoto雑貨』に置いてあるギアは防災用品としても扱いやすいものばかり。
「誰にでも扱いやすいギアをそろえて、初心者からコアなキャンパーまで楽しめるお店にしたいという思いで始めました」
そんな『osoto雑貨』は以前、中部電力×WOMO『わたしの防災』vol.1の記事でも取材をしているので、こちらも要チェック!
望月さんが、アウトドアギアショップを始めようと思ったきっかけ
幼い頃から父と山に登ったり、キャンプへ行ったりすることが好きだった望月さん。
大人になり、子どもをキャンプに連れて行った時、望月さんにとっては当たり前にわかると思っていた「テントの張り方」や「ガスコンロの火の付け方」がわからないという子どもたちの言葉に、思わず驚いたという。
普段から触れていないと使い方がわからないのは当たり前、と納得しつつも、“普段から触れておくことの大切さ”を痛感した。次第に望月さんは、「アウトドアギアを販売するだけではなくて、使い方を教えたい」と思うようになったそうだ。
かつて奥さまのご実家で焼津特産のなまり節や佃煮などの製造販売をしていた望月さんは、50歳になったタイミングで、妻の実家の家業である水産加工業を継ぐか、自分が好きだったアウトドアギアのショップをやるかの選択を迫られた。好きなものを仕事にしたいという思いを抱えていることを奥さんに相談すると、あっさり「アウトドアギアショップやっちゃいなよ!」と返事をもらったのだという。
そうして始めた『osoto雑貨』は、今では地元の人だけでなく、キャンプ好きや幅広い層からも愛され、2023年3月で4年目を迎える。
対話をすることで、使い方以上のことを伝えられる
「アウトドアギアの使い方を教える機会をつくりたい」以前からそう思っていた望月さんだったが、『osoto雑貨』では、お客さんに対して“教える”という形ではなく、お客さんが気になった商品について、使い方も含め、“一緒に話す”という姿勢を貫いている。
「お客さんと話をしながらギアを販売したいと思っています。会話をすることで、このお客さんの場合、どんな場面で使えるのか、どんなふうに置いておけばいいかなどがわかりますし、ギアの使い方以上のことを伝えられるんじゃないかと思うんです」
また、“『osoto雑貨』にしかないモノ”を増やしていきたいという望月さん。こうした思いから、オリジナル商品なども作っているという。
オリジナル商品の制作過程では、『osoto雑貨』に足を運ぶお客さんの声を聞き、望月さん自身もギアの不便な点などをピックアップしながら「もうちょっとこうなれば便利だな」といったアイデアを商品に反映している。
オリジナル商品だけでなく既存の商品も、「こういったものが欲しい」という声があればいち早く探し、それがたとえ万人受けするものでなくても、迷わず店頭へ置くという。
『osoto雑貨』に並べられたギアたちは、お客さんの声、そして対話を通して望月さんが感じた思いの先にあるものなのだと気づく。
遊びながら覚える「防災」
「アウトドアギアと防災は、とても親和性が高いと思っています。アウトドアギアは丈夫で、機能性もよく、非常に使いやすい。使わなければいけない場面で、“簡単にすぐ”使えるといった点で、災害時にもぴったりなんです」
しかし、その考え方はまだ浸透しきっていないと感じている望月さん。
「防災用品って、購入してもしばらく使わなくて、結局袋に入れて放置してしまう場合が多いですよね。アウトドアギアとして普段から遊びながら触れておくことで、使い方を自然と覚えます。そうすると、緊急時に焦らずスムーズに使えるようになるんです」
焼津市在住の望月さんは、居住地が海に近いことから「いざ津波や地震などが襲ってきた際にどうすればいいか。そのためにどう備えるか」といった“防災意識”を常に持っているという。また、自宅には非常時に使えるアウトドアギアのほか、食料品・水分などの備蓄品をそろえている。
災害時に活用できる、アウトドアギア
かつて九州で起きた大地震の際、被災者が貸し出しテントで寝るようすが報道され、「テントで寝るなんて初めてで、なかなか眠れなくて」という声を望月さんは目の当たりにした。以前家族でキャンプに行った際に感じた、“普段から触れておくことの大切さ”を、その時再び感じたという。
「たしかに、お年寄りやちいさな子どもにとっては、いきなりテントで寝るといった状況は困難かもしれない。けれども知っておいてほしいのは、灯りや食料、寝床など、人間が生活していく中での必要最低限のものは、どんどん便利な世の中になるにつれ、あることが当たり前になってしまっているんです。だからこそ、アウトドア体験を経てそれらの環境を一から作るという経験は、とても大事なんですよ」
「環境を一から作るという経験」をすることで、普段当たり前のようにあるものがなくなったときに必要なものが見えてくる。
山へ遊びに行き、まったく明かりのない真っ暗闇の空間に身を置くと、初めてその不便さに気づくことができる。ひとつのランタンの灯り、一枚の毛布のあたたかさがどれだけ大切か。そう実感することができるのだ。
近年では災害が起きてから必要だったものに気づき、ホームセンターやスーパーで買い求めようとする動きがよく見られる。そして、月日が経つとその危機感も風化してしまうことが多い。
「いま台風が起きて身動きが取れなくなったら?」「いま頭上で光っているライトが消えたら?」「いまライフラインが断たれたら?」そんなことを少しでも考える瞬間を増やしていくことが、最終的には私たちの命を守ることにも繋がるのかもしれない。
最後に望月さんに、『osoto雑貨』のこれからについて聞いてみた。
「お客さんが気軽に来られて、自分の好きなキャンプやギアについて話せる場所でありたいなと思っています。ここに遊びに来る感覚でね。普段使いができるギアの使い方のワークショップなども考えているんですが、アウトドアギアを通して、防災についても考えてもらえるきっかけや接点を増やしていきたいですね」
その人らしさやそこにある想い、空気感、手触りを大切に書いています。まちを歩いて、自分だけの“好き”を見つけることの楽しさを、文章を通して伝えられたら嬉しいです。