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日月堂リラ/タヌキケーキがつないだ新たな接点。老舗菓子店の“継続と挑戦”

日月堂リラ/タヌキケーキがつないだ新たな接点。老舗菓子店の“継続と挑戦”

静岡市清水区の国道1号線沿いにある菓子店、「日月堂リラ」。看板商品の「タヌキケーキ」は若いお客さんからも人気だ。3代目店主の菊池さんに、大切にしている思いや、商品についてのエピソードを伺った。

戦前から続く歴史ある菓子店「日月堂リラ」

車通りの多い国道1号線沿い、静岡市清水区にある「日月堂リラ」は、ケーキや焼き菓子などの洋菓子や和菓子を扱う菓子店だ。

長い年月を感じさせる外観にちょっぴりドキドキ。ゆっくりと引き戸を開け店内へ入ると、ショーケースにずらりとおいしそうなお菓子たちが並んでいた。

ショートケーキやチョコレートケーキ、スイートポテトやレモンケーキに、おまんじゅう。
思わず目移りしながら「わあ…おいしそう!」と心を躍らせる。
そうしていると「いらっしゃいませ」と3代目店主の菊池さんが穏やかに出迎えてくれた。

お店の歴史はなんと戦前から。和菓子屋「日月堂」として創業し、2代目からは洋菓子も作るようになったという。
その頃から、「リラ」というお花の名前をつけた「日月堂リラ」という現在の店名となった。

流行りは追わない。1年を通して楽しめるベーシックなお菓子たち

「ケーキも他のお菓子も種類はもっとたくさんあればいいと思うのだけど、ひとつずつていねいに人の手でできるものにこだわっているから、種類もかなり絞っています」と菊池さん。

「最近では、新しい種類のお菓子がたくさん売られています。流行りがあれば、もちろん時代とともに廃れていくものもありますよね。そうして結局何が残っているのかというと、やはりベーシックで昔ながらのお菓子なんですよ」

「うちはあえて流行りは追わずに、作るものは“食べる機会の多いもの”と、“長く愛されるもの”。味わいは、その時代の人たちの好みに合わせて変化させていきたいと思っています」

「日月堂リラ」のお菓子は、あえて機械化せず、大量生産もしない。その分、食感や味わいにはとことんこだわっているのだそう。見た目は素朴なものが多い。

「日月堂リラ」で最も歴史のあるお菓子はおまんじゅう。しっとりとした薄皮の中にぎっしりとあんこが入っている

菊池さんが心がけているのは、“シンプルでおいしいものを作ること”。
ただそれが実現できるのは、菊池さん自身が積み上げてきた技術があってこそだ。

新たなお客さんとの接点となった「タヌキケーキ」

「僕はそんなに詳しくないんだけど、Instagramでの発信にもチャレンジしてみているんですよ。学生さんに教えてもらったりしながら、ちょっとずつね」と話す菊池さん。
昔からお店に通ってくれる地元のお客さんのほかにも、SNSで「日月堂リラ」の存在を知った新しいお客さんが訪れるようになったのだそう。

そのなかでも、特に若いお客さんから人気を集めている「タヌキケーキ」。
最近では取り扱う洋菓子店もすっかり減ってしまったが、ショーケースに並べられた「タヌキケーキ」を見て「懐かしい!」と思う人もいれば、初めて目にした若い世代には新鮮に感じられるかもしれない。

「うちみたいな小さなお店が長く続けていくには、看板商品のようなものがあった方がいいと思うんです。うちは何かな?って考えていたら、ちょうどその頃からぽつぽつと『タヌキケーキ』を求めてお客さんが来てくれるようになって」

「タヌキケーキ好きの集まるコミュニティや、イベントもあるんですよ。おもしろいですよね。以前、岩手県で開催されたタヌキケーキのイベントに出店してからは、県外からのお客さんも来てくれるようになったんです」と菊池さんはにこっと笑う。

「日月堂リラ」の「タヌキケーキ」は、目がくりっと大きいのが特徴。表情が1匹ずつ違うのが愛らしい。
「目はチョコレートでできています。かわいいでしょ」

耳の部分はアーモンド、土台はしっとりふかふかのスポンジケーキだ。
頭の部分はバタークリームでできており、昔なつかしく素朴な味わい。

味はプレーン、抹茶、チョコレートの3種類。
それぞれの見分け方は、おへそがついていないものがプレーン、白いおへそが抹茶、茶色いおへそがチョコレート。

まっすぐこちらを見つめる様子に、思わずフォークを入れるのをためらってしまうが、思い切って頭から半分に割るのが「タヌキケーキ」好きのお作法だそうだ。

……筆者は頭から半分に割る勇気が出ませんでした!

菊池さんおすすめの焼き菓子「ざっくるみ」

菊池さんが「ぜひこれも味わってもらいたい」と話す「ざっくるみ」。
たっぷりのくるみと香ばしいキャラメルが相性抜群、名前の通りザクザクした食感が楽しい洋菓子だ。
パッケージデザインは、「静岡デザイン専門学校」の学生と一緒に作ったのだという。
菊池さんからの意見を参考に、学生がたくさんのアイデアを出してくれた。

くるみから連想されるリスのイラストに、さまざまな色の帯。素朴な味わいに似合う、やさしい手書きの文字。
「帯が縦長だと、中身もちゃんと見えるからいいよね」「ハンコを押したデザインにするのもいいかも」と試行錯誤した過程の結晶を、菊池さんは大切に保管している。

これからもずっと変わらないことと、変えていくこと

「うちのお菓子を食べて、笑顔になってほしい。幸せになってほしい。これは、初代からずっと大切にしてきた思いです。菓子店にとってはあたり前のことかもしれないけどね。
それと、人の手でつくることはずっと続けていきたいかな。

でもね、この場所でお店を続けていると、時代が変わるにつれて周りの街の様子がどんどん変わっていって、お客さんの年代や好みも少しずつ移り変わっていくのがわかるんです。
うちに来てくれるお客さんが飽きないような工夫や挑戦はもちろん、変わらない思いを大切にしながら、味や考え方は時代に合わせて変化させていきたいですね」

引き戸には商品紹介やSNS紹介の貼り紙がびっしり。「外観だけじゃ、なんのお店かわからないでしょ(笑)」と菊池さん

お店を愛してくれるお客さんのために、この場所で菊池さんはこれからも挑戦を続ける。
「気になっていたけど、まだお店に行けていなかった」という人は、ぜひ足を運んでみてほしい。

「日月堂リラ」

住所/静岡県静岡市清水区中之郷3丁目5-40
営業時間/9:00~19:30
定休日/月曜
電話番号/054-345-7641
駐車場/3台

ライター
WOMO編集部 坂本

その人らしさやそこにある想い、空気感、手触りを大切に書いています。まちを歩いて、自分だけの“好き”を見つけることの楽しさを、文章を通して伝えられたら嬉しいです。

更新日:2024/3/14

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