教えて!知らなかった「避難所での生活」
地震、台風、洪水で被災し、「避難所」で生活することになったら。その実態や注意点、女性が知っておくべきことなどを『特定非営利活動法人 御前崎災害支援ネットワーク』代表の落合 美恵子さんに教えてもらった。
災害で、自宅以外での生活を余儀なくされてしまったら
突然の災害で、家が倒壊・浸水するなどして自宅以外での生活を余儀なくされてしまった時、私たちは「避難所」でどのように過ごせばいいのだろうか。
いずれ起こりうるといわれている「南海トラフ巨大地震」は、「東日本大震災」に比べてより大きな被害が予想されるようだ。
今回は、『特定非営利活動法人 御前崎災害支援ネットワーク』代表の落合 美恵子さんに、災害ボランティア活動などを行う中で知った「避難所」の実態や、「避難所」で生活する際の注意点、女性が知っておくべきことなどについて、お話を伺った。
そもそも「避難所」って?「避難場所」との違いとは
「落合さん、こんにちは!本日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。防災や避難所のことについて、なんでも聞いてくださいね。さっそくですが、『避難所』と『避難場所』の違いってわかりますか?」
「う〜ん、そう言われると、違いを知りませんでした」
「避難所」と「避難場所」の違いは次の通り。
「なるほど!それぞれの違いについてよくわかりました」
「どちらも設置場所を事前に調べて把握しておくことが大切なんですよ」
「避難所」や「避難場所」の確認については、ハザードマップや防災マップ、防災アプリを活用してみよう。
〜あわせてチェック!〜「災害時」編 『災害が起きてしまった。そんな時はどうしたらいい?』
自治体が用意する防災備蓄倉庫の中身を知っていますか
自分の住んでいる地区の防災備蓄倉庫に格納されている物資を見たことはあるだろうか。
防災備蓄倉庫は、主に「避難所」に指定されるような小学校や中学校、公民館などに設置されている。
地区によっては、子ども用や介護用おむつ、ミルク、生理用品などが用意されていたりするが、避難者全員の分をまかなえるわけではない。地区によっては、必要な物資が不足している場合も多いのだという。
そこで重要になってくるのは、災害時に必要になると想定できるものを自分たちで準備しておくことだ。
「備える編」では、防災とアウトドアの関係性やおいしい「防災食」、防災バッグなどについて紹介している。ぜひチェックしてみよう。
備える」編 『防災とアウトドアの関係性&たのしく備えるおいしい「防災食」』
落合さんの防災バッグも見せてもらうことができた。
「防災食やレインコートなどの必需品の他にも、化粧水やハンドクリームなど、自分たちが普段の生活で使っているこだわりも反映するといいですよ。お子さんがいる方はいつも食べているお菓子やおもちゃなどもあるといいですね。避難所での生活は、心の癒しも必要なのです」
落合さんの防災バッグの、“工夫されたポイント”はこちら。
- ●ポーチやビニール袋に小分けして、それぞれの分類名を書いておくことで取り出しやすくなる
- ●さらに全てを大きなビニール袋(ゴミ袋でOK)に入れておくことで、リュックが水没しても中身が濡れないようにしておく
- ●「食品用ラップフィルム」は食事の時お皿の上にのせて使う。お皿を洗わなくてよくなるので節水になる。また、怪我をした時の包帯としても使える
いざという時のために効果的な準備をしておくには、「避難所」での生活を想像する力が必要になる。ここからは、なかなか知る機会が少ない「避難所」での暮らしについて学んでいこう。
「避難所」での暮らしとは
「落合さん。わたし、『避難所』での生活がイメージできなくって。災害が起きるとその様子が報道されたりして、なんとなく知っているつもりでいたんですが、落合さんが知っている『避難所』の実態を教えてもらえますか」
「いい疑問を持ちましたね。よくテレビなどで見る『避難所』の様子というと、体育館に仕切りが設置されていて、それぞれのスペースで寝ていたり、ボランティアが救援物資を配っている様子などが多いでしょうか」
「はい。まさにそんなイメージでした」
「災害規模にもよりますが、実は発災直後からその環境ができるまでにかなりの時間がかかることを知っていますか?」
「えっ…そうか…誰かが動いて準備や設置をしないと、その環境は作れないですもんね」
災害規模にもよるが、発災直後の「避難所」の状況は、ほどんどが無秩序。避難者は仕切りがない中で雑魚寝をするしかない。
早ければ約2週間後に、ようやく仕切りや自衛隊などによる簡易風呂などの救援設備が設置されたり、物資が届き始める。
「避難所の立ち上げはその地域の自主防災会(※)が行います。でも、その後の運営は、被災者が協力してやっていくしかないんです。これも意外と知らない人が多いですよね」
※各町内会などで地域住民が協力して組織防災活動をする集まりのこと
「避難所に行けば物資が用意されている、誰かが助けてくれるって思ってしまっていました…。避難所では、受け身ではなく行動することがとても大切なことがわかりました」
「避難所」の現状とは
「実は避難所では、一人に与えられるスペースの基準はおよそ畳2畳分と言われていますが、実情は畳1畳程度になることが多いようです。大災害の場合は避難所にさえ入れず車中や屋外で過ごす人もいます。家族で生活する場合も、家族の人数分のスペースが確保できるかどうかはわからないのです」
落合さんに聞いた、避難所の現状をまとめてみた。
- ●1人に与えられるスペースの基準は約畳2畳分(実情は約1畳程度とも)。家族の人数分のスペースが確保できるかどうかはわからない。
- ●基本的に「ざこ寝」のような状態。物資が届くまでは、布団や毛布は用意されていない場合がほとんど。
- ●仕切りが設置される場合も、人数分の仕切りが用意されているとは限らない。アウトドア用のテントを自分で用意する人も多い。
- ●屋内でも、冬は寒く、夏は暑い。体調不良者が出る場合も。
- ●盗難などの被害が起きる場合も。防犯当番を配備する必要も出てくる。
- ●慣れない集団生活で、大人も子どももストレスが溜まってしまう。
- ●簡易的な段ボールの仕切りや布で作ったカーテンなどではプライバシーが守られにくい。
「落合さんが災害ボランティア活動をされた先の避難生活は、どのような感じだったのでしょうか」
「この写真は私がボランティアで訪れた熊本県の嘉島町立体育館の避難所の様子です。段ボールで簡易的に仕切りを作っていますが、腰の高さまでしかなく、立って歩くと中が丸見えになってしまっていたんです。避難者から不安の声を聞くこともありました」
「こちらの写真は、同じくボランティアで訪れた、岩手県立大槌高校体育館の避難所の様子です。布でカーテンや仕切りを作っていますが、今度は逆に中が見えないので犯罪などのリスクも高まります」
さらに落合さんは、「避難所」での女性ならではのリスクや悩みもぜひ知って欲しいと話してくれた。
女性が避難所で安心して生活するために
「避難所」での生活では、着替えや授乳のための場所の確保、妊娠時の健康問題、子どもを連れての生活など、女性だからこその悩みが尽きない。さらにはプライバシーが守られにくいことによって起きる性犯罪などの問題も。
長引く避難生活の中で衣服などの洗濯をする必要があったが、女性の下着などを干す場所が確保できない避難所が多くあったそうだ。
「支援物資で届いた女性用の衣類があって、とても助かったという声を聞きました」
では、女性の着替えや授乳、洗濯などといったスペースの確保はどのようにすればいいのだろう。
「学校などに避難している場合には、たとえば2階は女性のみが入れるスペースにするなど「階」で分けるといった工夫がされた避難所もありました。そうすれば、防犯にも配慮できるので、女性が安心して過ごせますね」
「なるほど、それはいい案ですね!」
「このように避難所では、洗濯を干す場所だけでなく、着替えや授乳、おむつ替え、生理など、女性ならではの悩みに多く直面します。一人ひとりが不安なことや、足りないものなどを話し合ったりして、少しずつ環境を改善していく必要があるんです」
「そうなると、周囲をまとめられる女性のリーダーのような人が必要ですか?」
「確かに周りを先導していく人がいれば環境は早く整うかもしれません。でも、全員が被災して余裕のない状況で、みんながリーダーのように周りをまとめられるかというと、そうではありませんよね」
「いざその状況に陥ったら、自分のことで精一杯になってしまいそうです」
「それは当たり前のことだと思います。リーダーとなってくれそうな人がいたら、必要なものの相談をするなど、自分のできることからで大丈夫ですよ」
避難所の運営には、わたしたち女性も積極的に参加することで、女性だからこそ必要な設備や物資などのリアルな意見が挙がりやすく、より迅速に過ごしやすい環境づくりが進んでいく。
「さらに悲しい現状として、避難所では性犯罪などが起きることがあります。授乳中に覗き込まれたり、トイレに行く途中に襲われたり…幼い子どもが被害にあうことも。そういったことを回避するために、スペースの確保と隔離以外にもできることがあります」
- ●防犯ブザーを携帯しておく
- ●一人にならない。トイレに行く時など、暗がりや死角を避け、何人かで行動する
- ●性犯罪にあってしまった時のために、ピルなども防災バッグに用意しておく
「最後になりますが、避難所でみんなが安心して生活するためには、避難者同士の協力や、女性ならではのリスクを理解して行動することが大切です。まずはその現状を知り、もしもの時に自分が避難所で生活するイメージをしておくことで、過ごしやすい環境へいち早く整えることができます」
「知っていたようで知らなかったことがたくさんありました。もし避難所で生活することになったら、わたしもできることから取り組んでみます。今日はありがとうございました」
お話を伺った落合さんが関わる活動について
落合さんが代表を務める『特定非営利活動法人 御前崎災害支援ネットワーク』は主に、
- ●災害ボランティア活動
- ●市民への防災啓発活動
といった2つの活動を行っている。
災害ボランティア活動
東日本大震災の際に5メートルの津波が襲来した岩手県上閉伊郡大槌町に、何度も土砂撤去などの復旧支援へ。また、静岡県でも多くの影響をおよぼした2022年の台風15号では御前崎市内や清水区押切地区などで、浸水被害のあった住居の復旧支援を行った。
市民への防災啓発活動
自主防災会や女性向けの防災研修会などを開催。
中部電力×WOMO「わたしの防災」「備える」編、「災害時」編もチェックしよう
「備える」編 『防災とアウトドアの関係性&たのしく備えるおいしい「防災食」』
「備える」編 『家の中と外出時、「もしもの時」に備えよう』
「災害時」編 『災害が起きてしまった。そんな時はどうしたらいい?』
その人らしさやそこにある想い、空気感、手触りを大切に書いています。まちを歩いて、自分だけの“好き”を見つけることの楽しさを、文章を通して伝えられたら嬉しいです。