
「ローリングストック」を日常に取り入れるコツは? おすすめの収納方法や防災グッズを学ぼう
買いそろえただけで安心しがちな非常食や防災グッズ。いざ災害が起きたときには賞味期限が過ぎている、ということも。いざという時にそうならないために、普段の生活にとけ込む「ローリングストック」を学ぼう。上手に備蓄するためのコツや収納方法、おすすめの品をご紹介!
監修は、防災士であり片付けのプロ 波多野 友美さん

静岡県浜松市在住。産後うつの経験をきっかけに片付けの魅力に出合い、プロの道へ。整理収納アドバイザー1級、住空間収納プランナーマスターなどの資格を取得し、「整理収納コンペティション2020 プロ部門」では日本一に輝く。2019年には防災士の資格を取得。企業・大型商業施設の防災コンサルタントや防災講座の講師として活動している。テレビ・新聞・雑誌など、数々のメディアにも出演しており、防災では海外からもテレビ取材を受けるほど。
波多野さんが考える「ローリングストック」とは?


「鈴木さんこんにちは! 防災士・片付けアドバイザーの波多野です」

「波多野さんこんにちは、今日はよろしくお願いします! これまでさまざまな防災術を学ぶ中で、備蓄の重要性を痛感しています。“ローリングストック”という言葉を耳にしてから、自分でもいろいろと食品を買い揃えてみるのですが、なかなかうまく使い切れずに困っています」

「なるほど。農林水産省によると、ローリングストックとは『普段の食品を少し多めに買い置きし、賞味期限を考えながら消費・買い足しすることで、常に一定量の食品が備蓄されている状態を保つための方法』とされています」
「みなさん、備蓄への意識は高いのですが、ポイントは“消費”。いかに“ローリング=備蓄”を回転させるかが重要になってきます」

「ほんとうにその通り。気づけばストックだらけで、部屋のあちらこちらに置いている状態……スッキリしないんです」

「たしかに、非常食や防災グッズがつねに目に入るところにあると、気持ち的にも落ち着かないですよね」
「防災の観点からは、“多く蓄えること”がとても大切。対して、片付けは“減らすこと・少なくスッキリみせること”がポイント。収納や片付けのテクニックを活用することで、無理なく、無駄なく、ローリングストックを日常にとけ込ませることができます」
「わたしが実践するローリングストックは、いかに多くの備蓄を、いかに空間を仕切って収納し、いかにラクに出し入れするか。今回はこのコツをお伝えしたいと思います!」

「普段の片付けにも役立つヒントがありそうです! ぜひ具体的に教えてください」
ローリングストックを上手に実践するポイント


「ポイントは大きく分けて『収納』『消費』の2つ。まずは『収納』について。こちらが波多野家のパントリーです。この左奥のクリアボックス類に、家族3人、水以外の3週間分の食料を収納しています」

「3週間分とは思えないほどコンパクトですね!」

「そうですね。食品を買ったら、まず賞味期限をチェック。みそ汁やスープといったセット売りの商品は、個包装に期限が書いてある場合、外箱・外包装から出して収納します。出し入れの際の動作が減らせるのでとても管理が楽になります」
「そして、賞味期限が先のものをボックスの奥へ。つねに賞味期限が近いものを手前にセットします」


「このボックスの分け方にも何かコツがあるのでしょうか」

「はい。基本、ボックス1つに対して1つのジャンルの食品を収納しています。スープ類で1箱、レトルト食品で1箱、調味料で1箱というようにカテゴライズすることで、ジャンルやそれぞれの中身の偏りが減らせます」

「クリアボックスなので、何がどれだけ備蓄されているか、一目瞭然ですね」

「フタのないボックスというのもポイントなんですよ。買ったらスッと収納し、使いたい時にパッと取り出せます」


「いちいち探さなくていいので楽ですね!」

「さらに、よく使う食品ほど、出し入れしやすい腰から胸の間の高さに置くのもコツのひとつ。腰をかがめたり、腕を伸ばしたりというストレスがあると、習慣化しにくくなりますからね。特に食事は毎日するものだからこそ、余計な動作を省くことで、日常に取り入れやすくなります」

「ちょっとしたことが、継続するうえでは大きな差になるのですね。ポイントの2つ目、『消費』についても教えてください」


「『消費』においては、やはり賞味期限の管理が重要。とはいえ、いちいち覚えていられませんよね。なので、まずは収納のタイミングで期限順に並べて入れておくこと。そして、2〜3か月毎に賞味期限のチェックを行います。チェック自体を忘れてしまうという方は、チェックをした日付をボックスのどこかに貼っておき、日ごろから目につくようにしておきましょう」

「わたしの場合、賞味期限が1か月を切った食料をこうやってカゴにピックアップし、冷蔵庫やキッチン周りなど、すぐに使えるようなところに置き場所を変えて、これらを優先的に消費することで、ムダにならないようにします。消費した分、そのジャンルの食料を買い足すのも忘れずに」

「冷蔵庫に入れてしまうと、どうしても消費するのを忘れてしまうんですよね……」

「そんな方にぜひおすすめなのが、冷蔵庫の中のアドレス整理です」

「波多野家では、冷蔵庫の中にもラベルシールやマスキングテープを貼り、どこに何を入れるか決めています。そして、“早く食べる”ボックスをつくり、その中に期限の迫った食料を入れておくことで、ロスを防いでいます」

「冷蔵庫の中がとってもきれい!」

「ラベルを貼ったことで、家族も自然とラベル通りに元の場所に戻してくれます。カゴにまとめることで食料は取り出しやすいですし、省エネにもつながる、いいこと尽くしのテクニックなんですよ」


「日常の延長として、防災意識を高められそうですね」

「はい。みなさんのお悩みの中で少なくないのが、家族間における防災意識の違いです。わが家のローリングストックは“THE 非常食”だけではなく、普段食べるものを使い回していく方法。ラクラク備蓄と定期消費を心がけることで、フードロスの考え方から防災まで、家族の中にも自然と意識が芽生えているように感じます」

「備えて終わり、ではないですね」

「ローリングストックのいいところは、いざというときに慣れ親しんだものを食べられる点、そして、家族の好みに合わせて品揃えを変化できるという点です」
「例えば、体調不良の時には自分や家族は何を食べたいと思うのかなど、いろいろな状態を想像しながら買い揃えています。災害時は水が使えず、皿や箸などのカトラリーにも限りがあります。そのような状況で、それぞれのご家庭で無いと困るものを中心に、必要な物を選んで揃えると良いと思います」
ローリングストックにおすすめの[食品]

「普段の生活で試しながら、自分たちに合った備蓄を揃えていく。必ずしも“これが必要”ということではないのですね。波多野さんがさまざまな備蓄を試した中で、おすすめの食品はどんなものでしょう」


「まずわたしがおすすめするのは、レトルトパウチタイプの食品です。震度5以上の地震が発生した場合、水道管や排水管が破損する可能性が高くなります。ツナなどは缶タイプがメジャーですが、災害時には缶を洗うための水も貴重ですし、排水口にお皿などを洗った水や液体は流せません。その点パウチタイプならコンパクトにたたみ、ビニール袋などに密閉しておくことができます。同じ理由から、波多野家ではカップ麺など残った液体の処理に困るものは備蓄していません」
「そのほか、野菜は乾燥・水煮・冷凍の種類別に揃え、つくる食事によって使い分けています」

「最近では、長期保存できる豆腐や常温保存できる牛乳も、災害時の貴重なタンパク源となります。もちろん、常温保存できる豆乳もおすすめですよ」
「野菜ジュースやトマトジュースの備蓄は、災害時に不足しがちな栄養を補うことができて、更にスープやカレーをつくるときに水分の代わりに入れることができて便利です」
ローリングストックにおすすめの[グッズ]

「思った以上にバラエティに富んでいますね。食品以外にもローリングストックにおすすめの防災グッズはあるのでしょうか」


「食事関連は、カセットコンロとカセットコンロ用のガスボンベ、そしてポリエチレン袋ですね。カセットコンロは火力や風よけなど商品により性能もさまざまです。カセットコンロの使用推奨期限は製造年から10年。ガスボンベは7年です」

「ガズボンベはどのように消費していくのがいいでしょうか」


「わが家ではアウトドアやお鍋料理等に使う他、ガスボンベ用のストーブを購入しました。ガスボンベ用ストーブにより差はありますが、ガスボンベ1本で1~3時間使うことができます」

「また、女性にとっては生理用品のローリングストックも欠かせません。生理用品には使用期限が書かれていないことも多いですが、おおよそ3年と考えてください。3か月分以上をストックしておくことをおすすめします。非常時は下着が洗えないことも踏まえ、生理用品の他、尿漏れパッドやパンティライナーなども用意しておくとよいでしょう。ただでさえ不安な中、使い慣れない生理用品で肌がかぶれたりすると大変。使い慣れたものをストックしましょう」

「トイレに関しても心配です」


「災害時用のトイレ商品はさまざまなタイプがあり、期限は5〜15年ほど。わたしの場合は持ち歩き用・車載用・緊急持ち出しリュック用・自宅避難生活用など、それぞれの用途や状況に適した商品を備蓄しています」

「自宅避難用の災害時用は、災害時に大量に出る排泄ゴミ用のゴミ箱の中にセットし、玄関に置いています。災害用トイレも商品により中身が違います。メーカーにより身体を隠すポンチョや、お尻ふきの紙、手の除菌水などが入っている物もあります。購入したら開けて最低でも1回は使ってみることがとても大切です」

「ありがとうございます。いつどこで災害が起こるかわからない……あらゆるケースを想定して備蓄することが大切なのですね」
波多野さん流、ローリングストックの収納場所や整理のポイント


「とはいえ、自宅保管するにはスペースに限りがあるので。収納場所や整理のコツはありますか」

「片付けの鉄則は、使う場所の近くに置くこと。今回ご紹介したローリングストックは自宅避難を想定していますので、食品ならキッチンの近く、生理用品ならトイレの近くなど、動線を意識して保管場所を決めましょう。そして、新しく買ったものは奥に収納し、手前の古いものから使えるようにしましょう」

「わが家では、水などの重くて出し入れが大変な物は、玄関の階段下収納に入れています。もちろんここでも、賞味期限が短い商品は出し入れが楽な高さに収納しています」

「ひとり暮らしやマンション住まいなど、収納スペースが限られている場合はどのようにしたらいいでしょうか」

「その場合は、部屋の中のデッドスペースを探してみましょう。ベッド下やクローゼットの下、トイレなど、意外と置き場所が見つかります。あとはローリングストックをはじめるにあたり、長年使っていない不要な物を処分して、置き場所を確保することも大切です」
最後に、波多野さんよりメッセージ

「ローリングストックにはさまざな方法があります。“これを絶対にそろえなければ”と構えず、家族の人数や好み、ライフスタイルに合った食品やグッズを備蓄すること。そして、生活動線に合った場所に収納し、日々の生活の中で使いやすい収納の仕組みを作っていくことを心がけましょう」

「備蓄の方法を見直すことで、防災意識が高まるだけでなく、食品や空間のロスまで軽減できますね。さっそく実践してみたいと思います。波多野さん、本日はありがとうございました!」

※本コラムに掲載されている食品やグッズは波多野さんの私物であり、特定の商品を推奨するものではありません