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知っておきたい静岡の富士山噴火の防災知識。火山灰被害を抑える正しい備えとは?

知っておきたい静岡の富士山噴火の防災知識。火山灰被害を抑える正しい備えとは?

静岡県民にとって身近な存在である富士山。これがもし噴火したら……。地震や台風への備えは浸透しつつある一方、噴火の被害についてはわからないことばかり。そこで今回は「静岡県富士山世界遺産センター」で火山研究を行う小林教授を訪問。噴火のしくみや火山灰に対する備えについて、正しい知識を学ぼう。

教えてくれたのは「静岡県富士山世界遺産センター」の教授・小林淳さん

「静岡県富士山世界遺産センター」学芸課教授。「静岡大学」防災総合センター特任教授。「東京都立大学」都市環境学部特任教授。専門は火山学や火山地質学。火山防災に活かすべく、火山地形や噴火の歴史について日々調査・研究を行う。2021年3月に改定された「富士山ハザードマップ」の作成にも従事。

研究活動はこちら

地震防災と同じくらい重要な火山防災


「小林教授、本日はお招きいただきありがとうございます。小林教授はこの静岡県富士山世界遺産センターを拠点に、火山研究をされているのですか」


「はい。こちらの施設は富士山の魅力をアピールするだけではなく、次世代へ伝えていくための学術調査を行う役割も担っています」


「正直なところ、富士山が噴火するってあまり想像できないというか……」


「富士山のごく近くに住んでいる方ですら、そうおっしゃることが多いんです。しかしながら、富士山が活火山なのは事実。ちなみに富士山が最後にいつ噴火したのかご存じですか」


「わかりません……」


「データとしては今から300年以上前、1707年に発生した[宝永噴火]が最後です。この噴火でできたのが、富士山の宝永火口ですね。ポイントは、この噴火の49日前に推定マグニチュード8.6の[宝永地震]が発生しているということ」

「これは火山噴火の仕組みが、地震と同様、大地を構成するプレートの動きによるものだから。つまり、"地震に備える"ことと同じように、"富士山噴火に備える"ことは、自分や大切な人たちの命や生活を守ることにつながる、ということだとわたしは思うんです」


「そう聞くと、なんだかとっても不安になってきました……」


「地震も含め、自然災害の対策は正しい知識を身につけることが第一歩。まずは興味を持つことからはじめましょう」

富士山噴火の仕組みとは?


「そもそも噴火って、どのように起こるのでしょうか」


「噴火は、地下深くで発生したマグマが地表へ飛び出す現象です。そのプロセスを辿ると、まずプレート同士の衝突や沈み込みによってマントルの一部が溶け、周囲の岩盤よりも軽い『マグマ』が生まれます。このマグマが地表付近まで浮上して『マグマだまり』を形成し、内部の圧力が限界に達したとき、地表へと激しく噴出するのです」

「地球の長い歴史からみれば、静岡はプレートの衝突と沈み込み、そこでつくられたマグマが噴出することで誕生した火山の活動によって形成された土地であるということを念頭に置く必要があります」


「日本一高い富士山と日本一深い駿河湾は、こうしてもたらされたんですね」


「そういうことです。今度は噴火はどのように起こるのか、そして噴火による被害がどのように広がるのか、ペットボトルを使った実験から考えてみましょう」

富士山噴火の影響範囲とは?


「ペットボトルの中に、火山灰に見立てた細かな砂と火山礫(かざんれき ※1)に見立てたビーズやゴム片を入れ、ここへ地球の内圧に見立てた空気圧を送り込んで、噴火を再現します」

「するとこんなふうに、同心円状(※2)に砂やビーズが飛んでいくのがわかるでしょうか」

※1 火山礫…噴火の際に火口から吹き飛ばされた岩石の破片のうち、粒の直径が2mmから64mmのもの
※2 同心円状…同じ中心をもつ円が、いくつも重なっているような形


「今度は、富士山上空に流れているジェット気流を扇風機で再現してみます」


「わぁ!さきほどに比べてかなり遠くまで飛んでいきましたね……」


「そうなんです。噴火には、マグマが液体のままゆっくりと流れ出す静かな噴火、それとマグマのしぶきが火山礫や火山灰となって勢いよく飛び出す激しい噴火の2パターンがあるのですが、もし後者が発生した場合、空高くのぼった火山灰は、ジェット気流によって東京や千葉など、広範囲に飛んでいってしまうこともあります」

「さらに、季節やその日の天気などによっても風向きは異なる。そんな自然条件などを加味して作成されたのが、富士山ハザードマップです」

"噴火のデパート"で起こりうる被害とは?


「富士山ハザードマップですが、溶岩流のマップや大きな噴石のマップ、降灰のマップなど種類がたくさんあって、正直どれを見たらいいのか……」


「なぜたくさんあるのかというと、富士山は"噴火のデパート"と呼ばれるほど、噴火で発生する現象の種類が多いから。数百℃に達する高温の火山ガスが火山灰と一緒になって一気に押し寄せる火砕流、火砕流よりさらに高温、1000℃前後のマグマが液体のままゆっくり流れ出る溶岩流、大きな噴石とも呼びますが、火山弾(※)や小さな火山礫、火山灰。溶け出した雪によって泥流が高速で流れ出るかもしれませんし、噴火後に雨が降ったら土石流が起きるかもしれません」

※火山弾…噴火の際に火口から放出されたマグマが、空中で冷えて固まりながら落下した直径64mm以上の岩石

出典:政府広報オンライン「命にかかわる「火山災害」噴火警戒レベルを理解し、防災情報をチェックしましょう」

政府広報オンライン


「そこでまず冷静に考えたいのは、急いで逃げる必要があるのか、そうでないのか。火砕流や火山弾、融雪型火山泥流(※1)は勢いやスピードがありますので、すぐさま安全なところへ避難してください。具体的には『噴火警戒レベル』に従って行動することになりますが、大きな噴石や火砕流の到達が予想される範囲内の方は、レベル3(※2)が発表された段階で、範囲外への退避が必要になります」

「小さな火山礫や火山灰などについては、火口の近くにいる場合を除き急いで避難しなくてよいものの、降り積もり方によっては、頑丈なコンクリート建物の中に一時的にでも身を隠すことが大切です。ただし、降り積もる火山灰の量によっては後の生活に多大な影響を及ぼします」

※1 融雪型火山泥流…噴火の熱で富士山の山頂付近にある積雪が急激に溶かされ、発生した大量の水が周囲の土砂や岩石を巻き込みながら高速で流れ下る現象
※2 噴火警戒レベル2の段階で範囲外への退避だが、富士山では噴火レベル2はないためレベル3


「たしかに、あまりに大量の岩石や火山灰をきれいにするのは時間がかかりますよね」


「実はみなさん勘違いされているのですが、火山灰は"灰"ではないんです……!」

火山灰はガラスが降ってくるのと同じ?


「ただの灰ではないって、あのサラサラとしたイメージのものではないのですか」


「はい。火山灰とはマグマが冷え固まったものですが、そのマグマは窓ガラスのガラスと同じ成分。それが割れた時の破片のように粒子一つひとつが鋭利なかたちをしていて、細かく砕けたガラスが降ってくるようなイメージに近いんです」

宝永噴火の最初期に、御殿場市街地郊外に降り積もった火山灰を顕微鏡で拡大したもの


「さらに厄介なのが、火山灰には導電性があることです。特に雨などで湿った火山灰が電線に付着するとショートを引き起こしやすくなるため、電力会社や浄水場は設備の故障を防ぐために、やむを得ず送電や給水を止めなくてはなりません。つまり、たとえ家が無事でも電気がつかない、蛇口をひねっても水が出ないという事態が起こりうるのです」


「思っていた以上に厄介ですね……」


「もちろん、降灰量によってリスクは異なりますが、たった数cm積もっただけで停電して水道も使えなくなる可能性があり、農作物などにも影響を及ぼすことに。ハザードマップでは沼津市や静岡市清水区の一部がここに該当します。地震の備えにプラスして降灰対策の必要性を感じていただけたでしょうか」

<降灰量ごとの影響(目安)>
 ●降灰50cm:家屋倒壊
 ●降灰30cm:森林への影響
 ●降灰10cm:停電、自動車への影響、水産物への影響
 ●降灰2cm:水道停止、鉄道・航空停止、農産物への影響


「はい。ハザードマップを眺めるだけではわからなかった、噴火の被害が少しイメージできるようになりました」


「静岡県富士山世界遺産センターでは、活火山富士山の成り立ちに加えて、宝永噴火の調査結果を一部展示しています。実際に積もった火山灰の高さや火山弾の大きさはどんなものか、家屋や畑にどんな影響があり、どう復興させたのか。富士山噴火の歴史を体感いただくことで興味をもち、家族で話し合うきっかけになれば幸いです」

富士山噴火から身を守るためにできること


「今からできる火山防災や噴火発生時の対策はどんなものがあるのでしょうか」


「火山灰対策に絞っていえば、まずは生身を守ること、目や口、肌を外気に露出させないこと。皮膚や粘膜にふれたらとても危険です。ヘルメットや手袋は地震対策でも準備しているとして、ここに長袖&長ズボン、ゴーグル、防塵マスクや濡れマスクがあるといいでしょう」

「また、火山灰は粒子が細かいので、通常のマスクでは吸い込んでしまうリスクがあります。水が使えないことも考慮して、ウェットシートを多めに用意するのもよいかもしれません。普段コンタクトをしている方はメガネの準備を。普段以上に角膜を傷つけてしまう恐れがあります」

防塵マスク/防塵ゴーグル


「降灰時の視界不良による事故にも注意を払いましょう。車やバイクはいつ故障するかわからないので、無理に動かさないこと。むやみにあちこち移動せず、断水や停電に備えた行動を心がけてください。噴火してからは出歩くことが困難なため、食料品や日用品は最低3日程度、可能ならば7日分以上備蓄しておくと安心です」

「また、水で洗い流したくなりますが、それもNG。火山灰は水に濡れると固まりやすく、排水溝が詰まる原因になります。また、車のフロントガラスに火山灰が付着したままワイパーを動かすとキズがついてしまいます」

最後に、小林教授よりメッセージ


「火山灰はガラス。これを知っただけでも、火山防災のイメージがだいぶ変わりました」


「みなさん、美しい富士山のままであってほしいという願いは同じ。ただ、活火山であるという自然の側面を忘れず、ご自身の住む地域に準じた情報を、自ら取りにいくことが大切です」

富士山ハザードマップ(令和3年3月改定)

「また、情報源はテレビだけ、SNSだけ、などと偏らないように。個人的に思うこととして、一部のメディアは恐怖を煽りすぎたり、極端な意見になりすぎたりしていると感じます。気象庁や静岡県といった公的専門機関の情報も織り交ぜながら、総合的に判断できるようになるとよいでしょう」

「この静岡県富士山世界遺産センターでも、火山噴火に関するイベントを開催していますので、そういった機会も取り入れてみてくださいね」


「小林教授、本日はありがとうございました!」

<取材・撮影協力>

静岡県富士山世界遺産センター(富士宮市宮町5-12)

世界遺産・富士山について、自然や信仰・文化的価値といったさまざまな角度から学べる。最上階のテラスから眺める富士の姿は圧巻で、フォトスポットとしても人気。夏季企画展「宝永噴火-噴火絵図と山肌に刻まれた痕跡から導かれる新たな噴火像」が2026年7月11日(土)~9月13日(日)で開催予定。

小林教授が担当する企画展や講師を務めるイベント等については公式ウェブサイトへ。

静岡県富士山世界遺産センター

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更新日:2026/6/1

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