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【亮月】栽培から製麺まで完全自家製。そば農家が作る香り豊かなそば 〜ふじのくに魅力ある個店フォトコンテスト大賞店〜

【亮月】栽培から製麺まで完全自家製。そば農家が作る香り豊かなそば 〜ふじのくに魅力ある個店フォトコンテスト大賞店〜

静岡県内の、地域と共に歩む小売店・飲食店を応援するプロジェクト「ふじのくに魅力ある個店」フォトコンテスト大賞店を取材!

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「ふじのくに魅力ある個店」には、また行きたいと思わせてくれる魅力あふれる店、街を元気にする店が500店以上登録されている。先日開催されたフォトコンテストのテーマは「あなたのお店の魅力が伝わる『自慢』の写真」。60点を超える応募の中から『亮月』の作品が大賞に選ばれた。

大賞作品に写っていたのは、富士を望む雄大なそばの畑。『亮月』では、店主自ら育てた自家栽培のそばを店で提供しているとのこと。単なるメニューや商品の写真ではなく、見る人にその先を想像させ、足を運んでみたくなるところが評価された。

大賞店の『亮月』について、詳しく取材をさせてもらえることになった。

うまいそばを訪ねて。丹那にあるそばの名店

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『亮月』があるのは、静岡県東部に位置する函南町の丹那地区。山に囲まれ、のんびりとした空気が流れる場所だ。明治時代から酪農が盛んで、このエリアでとれる牛乳は丹那牛乳という名前で知られている。

ときに霧が立ち込める丹那盆地は、昼夜の寒暖差と水はけの良さゆえに良質で風味豊かなそばが育つのだという。

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『亮月』で提供するのはすべて丹那で自家栽培したそば。店主の鈴木さんは、2010年頃から除草剤や農薬などを一切使用しない無農薬栽培をはじめた。一番おいしいとされる秋に収穫し、毎朝必要な分だけ挽いて、そばを打っているそうだ。

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『亮月』の仕込みは、毎朝7時、石臼でそばの実を挽くところから始まる。殻付きのまま保存することで、食べたとき、鼻へ抜ける香りに格段の差がでるのだという。

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皿の上でキラキラと輝くのは、つなぎに小麦粉を使った二八そば。そばの香りと、ツルッとした喉越しがたまらない。カツオの旨みが凝縮した、やや甘めのつゆによく合う。おいしいそばの3条件「挽きたて・打ち立て・茹でたて」を満たした「三たて」そばだ。

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もりそば(冷)またはかけそば(温)+揚げ物とご飯のセット(1430円)。えび天または自然薯の揚げ物、季節の炊き込みご飯、自家製そばようかんが付く

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自然薯をすりおろし、ふんわりと素揚げに。サクッとした歯ごたえ

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「韃靼(だったん)そば」を使ったそばようかん。プチプチした食感が楽しい、素朴な味わいのデザート

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そばの“おいしさ”を知るところから

他業種から参入した鈴木さんは、意外なことに、よくある“そば好きが高じて”脱サラしたのではない。リーマンショックの影響で、運送会社を退職したのがそもそもの始まりだ。「なにか始めようと思った」というが、しかし、なにをしようか決めかねていた。

そんなある日、ニュースで「第6次産業」という言葉を知った。農林水産業を意味する第1次産業、製造業などを意味する第2次産業、販売業やサービス業を意味する第3次産業をすべて兼ねる、ゼロから何かを生み出し販売するまで一貫して担う産業のことで、農山漁村の豊かな地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取り組みだ。

「自分にも『第6次産業』ができないかな、と考えてみたんです。『第6次産業』といってもさまざまな形態がありますし、何をやればいいか迷いましたが、次第に『そば屋』を始めてみてはどうかと考えるようになりました」。
このエピソードからも分かる通り、このとき、そばに深い思い入れがあったわけではなかった。

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「トラック運転手をしていた頃は、本州中を回りましたが、正直言って立ち食いそばしか食べたことがなかったですね。でも食べ続けていると、おいしさがわかってくるんです。おいしさを知ることから学んでいきました」。
研究のために食べ歩き、その中でそばの魅力に気づく。知るほどにどんどんハマっていくのが奥深い“そばの世界”なのかもしれない。

農業をする知り合いもいないなか、思い切って自宅近くの農家の方に声をかけると、そこからトントン拍子で話が進み、地主に巡り合うことができた。
「栽培条件にあう土地を一緒に探したり、トラクターなどの農業機械を貸してくれたんです。すごく助けていただきました」
そばの畑は年々拡大し、現在は20か所ほど。合計7ヘクタール、東京ドーム約1.5個分にもなる。

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店をオープンするまでの7年間はひたすら製麺修行

そばの実は収穫できるようになったが、そば打ちはまだ素人。「そこから店を開くまでの6、7年間は修行の日々。作った麺を地元の農協で販売していたのですが、なかなか売り上げが伸びなくて。早く店を開き、直接このそばの魅力を伝えたいと思いましたね」

当初は鰹節の「本枯節」も知らなかった鈴木さんだが、そばつゆにも妥協はない。鰹節問屋に師事し、麺の個性に合う味を追求。御前崎本枯節と羅臼(らうす)昆布を贅沢に使った香り高いつゆが完成した。

そして、ついにオープンの日を迎える。そばの実を埋めて7年目の結実だった。

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使っている自然薯は、石川さんという方が育てている地元函南産のもの。店のすぐ前の山で採れる

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今や客足の絶えない名店として知られている『亮月』のそばは、今では函南ブランドにも認定されている。目の前の山で採れるという、自然薯を使った揚げ物や、地元産の米を使った炊き込みご飯などがセットになった、丹那のおいしさをたっぷり味わえるメニューも人気だ。

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そば農家とそば店の経営も、バランスをとって両立している。
「収穫期である11月は忙しいですね。つぎの1年間の味を左右するので、農業に専念しています」
種まきは1週間ずつずらして4、5回行ない、刈り取るタイミングを変えるが、広大な畑の収穫には1か月ほどかける。
「タネ撒きや畑を耕す作業などは、一人では手が回らないので、地元の方にも手伝ってもらっています」。
もともと農業の盛んな丹那地区。地元も上手に巻き込んでいる。

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時には周りの力を借りながら、まっすぐに「そば」を愛してきた

ゼロからのスタートで6次産業を実現したことについて、鈴木さんは今までの道のりを少し謙遜しながら語った。
「今の時代、インターネットでなんでも調べられますからね。農業のやり方だって書いてあります。しかし、私の場合は、多くの方に教わり導いてもらったから実現できたのだと思います。力を貸してくださった皆さんに感謝しています」

鈴木さんは時に壁にぶつかっても妥協せず、美味しい「そば」への想いを胸にまっすぐに歩んできた。「一度きりの人生を無駄にしないために、少しも妥協するわけにはいかないと思って、そば作りの一つひとつを真剣に取り組んでいます。また他にもお店を出せたらいいなと思って」と笑顔で語る鈴木さんの目は輝いており、期待感や野望がその表情から垣間見えた。

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丹那そば 亮月

【住所】静岡県田方郡函南町丹那1196-6
【問合せ】☎055-900-8871
【営業時間】11:00〜14:00
【定休日】年始のみ休み
【駐車場】10台


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『丹那そば 亮月』ホームページ

更新日:2022/3/28

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